「よすんだルリちゃん! 君もランダムジャンプに巻き込まれるぞ!!」

アキトは必死にしがみつくルリを振りほどこうとするが、極限まで傷つき、疲労した体は動く気配すらない。

「私はアキトさんがいない世界なんて耐えられません! だから……だから一緒にいきます!」

「ルリちゃん……くっ……だめだっ、間に合わない……」

【ジャンプ開始まで……5……4……3……2……1……ジャンプ】

 

機動戦艦ナデシコ
時をかける者達

 


プロローグPart2

 


テンカワアキトは夢をみていた。
過去の……ナデシコAにいた頃の夢を……。

ユリカとの再開……ガイとの出会い……
生まれて初めての戦闘……
ムネタケの反乱……そして……親友、ガイの死……
サツキミドリでの戦闘……新しい仲間……
火星での戦闘……フクベ提督の最後……
地球での戦い……そして、ボソンジャンプ……
戦争の真実……
和平への道……白鳥の死……
ユリカとの二回目のキス……
ナデシコ長屋での生活……ユリカとの結婚……
拉致され、全ての物を奪われた……

――……やめろ!こんなもの……こんなもの……俺はみたくないっ! もう、あんな思いは嫌なんだ……っ!――

だが、アキトの意思とは関係なく無情にも映像は続いてゆく。
復讐……そして北辰との決着……
最終決戦……ナデシコCの登場……
ランダムジャンプ……もう離れないと言ってくれたルリちゃん……

――そうだ! ルリ、ルリちゃんはどうなった!?――

ここにきて、ルリがいないことに気づいたアキト。

早く探さないと……!
大丈夫、意識はある。
だが、起きようとするが身体が動かない……。
それならばと思い、気配を探そうとするが……わからない。
代わりに、違う者の気配を感じた……

――そこにいるのは誰だ……?――

アキトがそう思ったとき、その気配の主が現れた。

【初めまして、テンカワアキトさん。君を待っていました】

そういって現れたのは……ルリだった。

「ル……ルリちゃん?」

【私はこの少女の体を借りさせてもらっている者です】

「なに? どういうことだ。貴様、いったい何者だ……何故俺のことを知っている!?」

【私は、あなた方人間がいうところの、ボソンジャンプの演算ユニットの人格AIです。アルメリアと呼んでください】

「なっ……!? 遺跡のAI……だと……?」

アキトは絶句するが、アルメリアは構わず話を進める。

【貴方も知っているように、この少女は私のコピーと会話ができます。
 私には実態がないのでこの少女に頼んで一時的に体を借りている、というわけです】

「……なるほどな、それで? 君は俺にいったい何の用だ?」

アキトは納得し、話を進めさせる。

【……それは、謝罪です】

「……なに? なぜ遺跡の君が俺に謝る?」

【貴方達の未来は、本来ならばこうなる筈ではなかったのです。
 運命の歯車を狂わせ、その様な状態にしてしまったのは、他でもありません……この私です】

その言葉を聞くと、アキトは激怒した。

「お、おまえが……おまえが全ての元凶か……!」

普段だったら感情を押さえられず、怒りに任せてアルメリアに殴りかかっていたところだが、アキトはそれをこらえた。
アルメリアの体は遺跡本体の体ではなく、ルリの体なのだ。そのことがアキトの理性を辛うじて保たせていた。

【すべては私の責任です。だから、貴方には過去をやり直させてあげます】

「なにっ!? 今、なんといった? 過去を、過去をやり直すといったのか?」

アキトは怪訝そうにアルメリアに尋ねた。
聞こえはしたが理解が追いついてないようだ。

【はい、その通りです】

「そ、そんなことができるのか!?」

【なにを言ってるんですか? 貴方は以前、二週間前の月に跳んだではないですか】

アキトは思い出した。自分は一度、過去に行ったということを。

【遺跡を管理する私にとって、人間二人くらいを過去に送るなんて朝飯前です】

「まて、今二人と言ったがルリちゃんも巻き込むつもりか?」

【この少女とは、あなたが目覚める前に話しをつけました。この少女は快く引受けてくれましたよ?】

「そうか……ルリちゃんが決めたことなら仕方ないな。
 俺も過去へ行こう!そして、この狂った世界を元に戻してやる! そして、助けられなかった人達を……今度こそ救ってやる!」

【ありがとう。それから、私が貴方達を送るのはこの時間の過去ではありません。つまり、平行世界ということになります。
 これは私が直接過去に干渉することができないからです。それでもよろしいですか?】

「ああ、構わない。それで、いつ頃の時間に跳ばされるんだ?」

アキトは即答し、新たに質問する。

【貴方達にはナデシコが発進する二年前……つまり2194年にいってもらいます】

「そこで俺たちは何をすればいいんだ?」

【ナデシコが火星に到着したら、必ず火星の人々を救出してください。火星での生き残りの人が集っている場所はユートピアコロニーだけですから】

「……それなら木連が攻めて来る時に全員助けた方が早いんじゃないか?」

アキトは少し考え、そう答えた。

【そこの辺りは未来を変えてゆく貴方達が考えていった方がよろしいでしょう】

「……そうだな、これから未来を変えていくっていうのに他人の意見ばかり当てにしちゃ駄目だよな。
 ……わかった、今後の事は俺達で決めさせてもらうよ」

【それでは、最後に何か質問はありますか?】

「それじゃあ最後に一つだけ。……なんでこんな世界になってしまったのか聞かせてくれるか?」

【すみません、今は……お話しすることはできません。ですが、いつか時が来たら……必ずお話します】

「……そうか、じゃあまた過去に戻ったらいつか話してくれ」

【約束します。その代わりといってはなんですが、貴方にプレゼントをあげます】

そういうと、どこからか光の珠が六つ飛んできた。

「これは……いったい……?」

アキトがそう言うとその内の三つの珠がアキトの中に入る。

「くっ……なんだこれは……身体が熱い……?!」

【今の珠は貴方の五感を治すための珠です】

その言葉にアキトは驚き、そして歓喜した。

「なに!? 本当か……!?」

そういってバイザーを外す。
するとアキトの目にはルリの姿がハッキリと見えた。

「み……見える。バイザー無しでも目が見えるぞ!」

【それだけではありません。他の聴覚、触覚、嗅覚……そして味覚も治っています】

「ほ、本当か!? ありがとう……本当にありがとう……!」

ヤマサキに五感を奪われてから、アキトが何もしなかった訳ではない。
ネルガルがその持てる力の総てをアキトの治療に費やしても、終ぞ、取り戻す事は叶わなかったのだ。
何年かけても不可能だった事を、アルメリアは一瞬の内にやってのけたのだ。
自分でも気付かない内に、アキトの目には涙が浮かんでいた。

「……すまない、話を続けてくれ」

【はい――それでは、今入っていった残りの珠の説明をします】

「せ……説明か……」

【どうかしましたか?】

「い、いや、なんでもない。続けてくれ」

アキトは説明という単語を聞いて、寒気を感じたが気を取り直し話を続けさせた。

【今、貴方の中に入った三つの珠の内、一つは五感でしたね? それで後の二つなんですが、一つは貴方のIFSの強化の為の物です】

そう言われてアキトは自分の手を見ると、そこにはパイロット用とオペレーター用が合体したような、複雑なIFSが出来ていた。

「この模様は? パイロット用の物とは違うし……オペレーターのとも少し違うな」

【それは貴方のパイロット用のIFSにオペレーター用のIFSを組み込んだものです。
 それでナデシコのオペレートもできます。これで緊急の時に対応できるはずです】

「そうか、すごいな……君は……」

【驚くのはまだ早いですよ? もう一つの珠は君の戦闘能力を強化する為の物です。
 今の貴方はライフルの弾も避けようと思えば、避けることが出来、本気を出せば北辰すら簡単に倒すことが出来る筈です。
 後、何かあった時CCが無いとジャンプできないというのは不便ですから、貴方にはボソンジャンプの技術――というよりも、演算装置への直接のアクセス権と言ったところでしょうか。それを転送しました】

「ということはCC無しでもジャンプできるのか?」

【そういうことになりますね。クラスでいうとS級ジャンパーといった所です】

「君はもう何でもありだな……」

【あら、世界を修復する主人公なんですもの。これくらいの能力は朝飯前ではありませんか? 本当でしたら、もっと強くして差し上げるのですが……】

「まさか……、遺跡のAIが主人公最強論者だったとはな……」

アキトは驚きを通り越して少し呆れていた。
どうやらこの少女(?)はまだ物足りないらしい。
しかし、これ以上いくとアキト自身も恐ろしくなってきたので、丁重に断る事にしたのだった。
アキトが呆れていると今度はどこからかサレナとユーチャリスが現れた。

【残った三つの内、一つは貴方のこの機体に、もう一つはこの艦に与えます】

そうアルメリアが言うと三つの内二つがサレナとユーチャリスに吸い込まれてゆく。
すると機体(艦体)がニ、三回発光し、治まった。するとそこには形の変わった機体(艦体)があった。

「サレナの方はだいぶスリムになったな……。とりあえず、ちゃんとせつめ……いや、解説してくれ」

どうやらアキトもそろそろ慣れてきたらしく、すんなりと受け入れる事が出来た様だ。

【今の珠はブラックサレナとユーチャリスの能力を上げる為の物です。詳しいことは解説するより実際に乗ってから自身で確かめた方が良いと思います】

「……そうだな、そうするよ」

【ブラックサレナにもサポート用のAIを載せておきました。名前を付けてあげてください】

アルメリアがそういうと目の前にツインテールの少女が現れた。

【宜しくお願いします。マスター】

行儀よくお辞儀をするAI、どうやらホログラフィのようだ。

「こちらこそ、よろしく頼む」

【それでは最後の珠ですが、これは貴方の武器となる物です】

アルメリアがそういうと珠はアキトに近づき、マントとボディアーマーになった。

【そのマントの内側にあるポケットは一種の四次元空間になっていますので、様々な物が入って便利ですよ。
 ボディアーマーは戦艦並――とはいきませんがエステバリス並のディストーションフィールドを張ることができます。
 あとこれには特殊なフィールド発生装置が付いていて、これを展開する事によって普通の人でもボソンジャンプに耐えられます。
 効果範囲は……自分を中心として最大半径約1mといったところでしょうか。因みに、貴方の身長を越える物は一緒にジャンプ出来ないので注意して下さい。
 武器は一応二種類だけ入れておきました。貴方はどうやら二刀流―二天一流に近い流れを汲んでいるようですので、レーザーソードを二本、それと拳銃が一丁です。何か質問はありますか?】

「四次元空間って……まるで旧世紀のアニメに出てきた青い狸だな。――いや、猫だったか?
 ……まいいや、わかりやすい解説ありがとう。……それにしても随分と軽いな」

【その装備は全てナノマシンで構成されていますからとても軽いのです。
 ところで、そろそろこの少女が目覚めそうなので準備をしてください】

「わかった。……いろいろとすまないな……」

【いえ、これは私自身のことでもありますから……】

アルメリアがそういうとルリの身体が倒れそうになる。
恐らくルリが目覚め、アルメリアが離れたのだろう。急いでアキトはルリを抱きとめ、ルリを起こした。

「ルリちゃん、起きて。おーい、ルリちゃん?」

しばらくするとルリが目覚めた。

「あっ……アキトさん。おはようございます」

そういって丁寧にお辞儀をするルリ、だが彼女はまだアキトに抱かれたままだ。

「えっと……ルリちゃん?」

「ふぁい……なんでしょう……?」

ルリはまだ半分夢の中だ……

「そろそろ……ちゃんと立ってもらえるかな……?」

それを聞いてもまだ現状がわかっていない電子の妖精ホシノルリ。

「………………あっ!ごめんなさい、アキトさん!」

ようやく現状を理解したのかルリは顔を真っ赤にしながら立った。

「いや、いいんだよルリちゃん。(ニコッ)」

これが噂に聞くテンカワスマイル(黒の騎士版)。この無差別大量破壊兵器(女性限定)の直撃をくらったルリは更に顔を真っ赤にした。

(あ、アキトさん……なんだか前よりもかっこいい気が……)

既にルリは思考停止状態である……。

「ところでルリちゃん……ってルリちゃん、聞いてる?」

「……はい!? な、なんでしょうアキトさん」

アキトの言葉でようやく思考が戻ってきたようだ。

「ルリちゃんはもうアルメリアの話……聞いたんだよね?」

「……はい、聞きました。私の体でアルメリアさんがアキトさんと話をしているのも聞いていました」

どうやらルリは二人(?)の話を聞いていたらしい。

「それなら話が早いな。今からこれからのことをいうから二人とも聞いてくれ」

ちなみに二人というのはルリとアルメリアのことだ。

「まずアルメリアは俺達をナデシコ出航の二年前、場所は……そうだな、土星のあたりに跳ばしてくれ」

【わかりました。お任せください】

というウインドウが目の前に現れる。

「ありがとう。それじゃあルリちゃん、ユーチャリスのブリッジに行こうか」

そういってアキトはルリに手をさし出す。ルリはアキトのその行動に驚いたが……

「はい、アキトさん」

といって手をとった。

「っと、そのまえにサレナを中に入れないとな……ルリちゃん、ちょっとゴメンね」

そういってアキトはルリをお姫様抱っこで抱える。平然としているアキトに対し、ルリはいきなりそんなことされたのでパニック状態になってしまう。

「あ、アキトさんっ!! 自分で歩けます!!」

口ではそういっているルリだが心の中では……

(あ、アキトさんにお姫様抱っこしてもらえるなんて……幸せです。アキトさん)

等と考えていたりする。
その後、サレナを格納庫にジャンプで入れた後、自分達もジャンプでブリッジに行ったのだった。


〜ブリッジ〜


「ここはそんなに変わってないんだな」

「ここがユーチャリスのブリッジですか……ナデシコと随分違うんですね」

「ナデシコと違ってユーチャリスは完全にワンマンオペレーションシステムを実現させ、単艦・単独での奇襲攻撃を目的としているからね……」

二人がそんな会話をしているといきなりメリッサが話しかけてきた。

【マスター、お久しぶりです。また会えてとてもうれしいです】

「ああ、これからもよろしく頼むよ。しかし、久しぶりって、俺どの位気を失ってたんだ?……まあいいか」

【こんにちはルリ。私は初代の記憶を受け継いでるからいつも通り接してください】

「わかりました。よろしくお願いします、メリッサ」

しばらくこんな感じで和やかムードで話をしているとアルメリアから通信が入った。

【皆さん、準備はよろしいですか?】

【ああ、問題ない。色々と……ありがとう】

「はい、問題ありません。色々とありがとうございました」

ちなみにメリッサは『準備完了!』『いつでもOK!』『いってきます!』などの文字が書いてあるウインドウをだしている。

【わかりました。それでは皆さん、御武運をお祈りいたします。……それでは、ジャンプ開始まで後……10……9……】

「アキトさん、過去にもどったら私からお話がありますので聞いてくださいね」

「? ああ、わかったよ」


【……4……3……2……1……】

 

 

 


「「ジャンプ」」

 

 


 

第一話「告白」につづく

 

あとがき
09/12/10
とりあえず誤字脱字修正など。
特に大まかな修正はしていない……筈(笑)

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