機動戦艦ナデシコ
時をかける者達

 


第二話「接触」


次第に視界が開ける。
周囲の状況を確認すると、正確に目的地に着いた事が解った。

「……ジャンプ成功。此処は変わらんな」

アキトがジャンプした場所はネルガル会長室。
普段なら会長専用の椅子にアカツキが座っている筈なのだが――

「アカツキは一体どこだ?」

居ない、部屋中を探しても何処にもいない。
このままでは埒があかないのでアキトは再び携帯に電話する事にした。
呼び出し音が数回鳴った後、アカツキが出た。

〈もしもし?〉

「アカツキ、今一体どこに居る?」

〈ああ、君かい? あまりに遅いもんだからちょっとトイレに行かせてもらったよ〉

どうやらルリとの話がかなり長くなっていた様だ。アキトは遅くなった事を詫びると同時に、理由―無論、プロポーズされた事は伏せて―を話した。

〈別にいいよ。もうすぐそこに着くから座って待っていてもらえるかい?〉

「ああ、そうさせてもらう」

そういってアキトは電話を切った。
すると前の方にある扉が開き、アカツキが入ってきた。

「やあ、始めまして。僕がアカツキ・ナガレだ」

「自己紹介がまだだったな。俺の名前はテンカワ・アキトだ」

アキトの名前を聞いた瞬間、アカツキの表情が少し曇ったがすぐに元に戻り、話を続けた。

「テンカワって……もしかしたらテンカワ博士の?」

どうやら、この世界でもアキトの両親を殺害したのはネルガルの様だ。

「ああ、そうだ。だが安心しろ、俺は別に復讐の為に来たわけじゃあない。
 それにあれをやったのはお前の父親で、お前じゃないからな。
 お前を恨むのは筋違いってやつだ。それと、俺の事はテンカワで良い」

「そうかい? そう言ってもらえると…………助かるよ。
 それでテンカワ君は、一体僕に何の用があって来たんだい?」

「そうだったな、とりあえずまずはボソンジャンプについてだ」

「そういえばさっきも言ってたよね。テンカワ君はそれについて一体どれ位の事を知っているのかな」

「……全てだ」

「全て? じゃあテンカワ君はボソンジャンプを見たことがあるって言うのかい?」

「いや、俺は実際にボソンジャンプを使う事ができる。さっき電話で目の前に行くって話はボソンジャンプで行くって話だったんだ」

「へぇ? それじゃあ今すぐにでも見せてもらいたいな」

「ああ、初めからそのつもりだから安心しろ」

そう言ってアキトはフィールドを展開し、イメージを開始する。
――目標は……アカツキの後だ。

「……ジャンプ」

すると今まで目の前にいたアカツキが消え……と言っても消えたのはアキトの方だが、一瞬視界が虹色に変わり、直ぐにアカツキの後姿が視界に入った。
ジャンプは成功した様だ。

「なっ!? ……テンカワ君? 何処に消えたんだい?」

「お前の後だ」

「い、何時の間に……」

「これがボソンジャンプだ。ちなみにボソンジャンプとは時空間移動の方法であって瞬間移動ではない。
 後、ジャンプできる人間は限られている。だから今行っている実験は葬式代が無駄に掛かるだけだ、止めておけ」

「どうやら……君の言っている事は本当らしいね。わかった、止めさせておくよ」

「アカツキ、単刀直入に言う。……取引をしないか?」

「取引? 何のだい?」

「木連を知っているか?」

「ああ、100年前に月を追放され、木星に逃げ延びた人達……だったかな? それがどうかしたかい?」

「俺が知っていることに驚かないのか?」

「君は全てを知っているんだろ? だったら驚きはしないさ」

「流石だな。その木連が2年後に地球に対し、攻撃を仕掛けてくるぞ」

「なっ!? それは……本当かい? テンカワ君」

「ああ、本当だ」

「でも、何故君はそんな事を知っているんだい?」

「その事を話す前にお前に来て貰いたい所がある」

「何処だい?」

「俺の艦だ」

「艦? 僕は良いんだけどあまり時間が掛かると……」

「ま、気にするな。すぐに着く」

そういってアキトはアカツキの傍によりフィールドを発生させた。

「これは? ……まさか、ディストーションフィールド!?」

「ああ、個人用の奴だ。確か今はまだ開発中だったか? まあ、そのことも含めて全部後で説明してやるよ」

「ああ、頼むよ」

「それじゃあ入ったな? ……目標、ユーチャリスUブリッジ……ジャンプ」

会長室にボソンの光芒を残し、二人はユーチャリスUにジャンプした。


――ユーチャリスUブリッジ――

ここではルリがメリッサと共にこの時代の事について情報を集めていた。

「……どうやら私達の居た時代と大差はないようですね」

【ブリッジにボース粒子の増大反応を確認……マスターと会長の様ですね】

ブリッジに光が集まり人の形を作る。
そしてアキト達が現れた。

「ジャンプ成功。ようこそ、ユーチャリスUへ」

「おかえりなさい、アキトさん」

「ああ、ただいま。ルリちゃん」

「へぇ……ここが君の艦なのかい?」

「ああ、とりあえず俺の部屋で話そう。ルリちゃんも来るかい?」

「私はもう少し調べたい事が有りますのでもう少し此処に居ます」

「そうか、それじゃあ頑張ってね」

そう言うとアキトはアカツキを連れて自室に向かった。

「ここが俺の部屋だ。適当に寛いでくれ」

「ああ、……ところでテンカワ君。さっきの娘、もしかして……」

「ああ、所謂マシンチャイルドだ。俺はこの名称は好きではないんだがな」

「ち、ちょっとまってくれよ、なんでマシンチャイルドが此処に……!?」

「それも今から説明する。ただし、一つだけ約束してもらう」

「約束?」

「ああ、この話を聞いて取引に応じない場合、此処で話した事は全て忘れろ」

「忘れなかった場合は?」

「忘れないでこの話を悪用する様な事があった場合、ネルガルには物理的に消えてもらう」

アキトは少しだけ殺気を混めつつ、アカツキに言った。
ネルガルを物理的に消すと言うことは会社そのものに消滅してもらうと言う意味だ。

以前のアキトからは考えられない言動……もはや此処にはテンカワアキトではなく、闇の王子が居た。

「……わかった。約束するよ」

「よし、じゃあ話すぞ」

そしてアキトは語り始めた。
自分達が未来から来たという事。これは勿論、事故として説明した。
過去の木連との間にあった戦争。
アキト達の身に起こった事以外はアキトは全て話した。

「……これが俺達の未来で起こった出来事だ」

「まさか未来から来たとはね。確かに、ここの設備なんかを見ると、現在の秘匿技術が使われているみたいだし。
 君もどうやら正気のようだ。……それで、君は何がやりたいんだい?」

「以前の世界では、成す術もなく火星の人達は拉致された。
 だが、今は俺達という存在が居る。だからこれから起こるくだらない戦争を終わらせ、助けられなかった人達を必ず助ける。その為にはまずクリムゾンを潰す」

「なるほど、ウチにも利益があるわけだ。でもそれなら今から潰しに行った方がいいんじゃない?」

アカツキが言うことも尤もな事だ。
だが、それをしてしまうと世界が腐敗してしまい、アキト達がいた世界よりも酷い世界になってしまう。
しかし、アキトはちゃんとそのことも考えていたようだ。

「いや、クリムゾンはそれでいいとしてもそれでは俺達の世界よりも酷くなってしまう。それよりも戦争を早期終結させて、腐った連中を消した方が良い。
 協力してくれればジャンプの件に関してはネルガルの好きにしていい。実験にも少しだけなら協力する」

「なるほど。それほど酷い世界だったんだねぇ……。わかった、こちらにもかなりの利益が有るみたいだし、取引としては申し分ないよ」

「じゃあ交渉成立だな」

「ところでナデシコが完成するまで君達はどうするつもりだい?」

「俺は予定通りクリムゾンの研究所を潰す」

「この艦は?」

「完全に無人になれば、4〜5年は持つだろう。ナデシコが完成した後はこの辺りの宙域を散歩させておく。
 ナデシコのクルーが自分達の考えを持ち、戦える様になるまでは、俺はナデシコに乗るつもりだ。ユーチャリスは、必要になったら呼ぶさ。」

「そうかい、ルリ君はどうするって?」

するとタイミング良くルリが部屋に入ってきた。

「失礼します。アキトさん、情報収集は一通り終わりましたよ」

「そうか、ありがとうルリ。お疲れ様」

「いえ。それでアキトさん、お話はどれ位進みましたか?」

「ああ、ネルガルは君達を全面的にバックアップさせてもらうよ」

「そうですか。ありがとうございます」

「それでルリはナデシコが完成するまでどうする?」

「そうですね、ナデシコの強化に協力しましょう。火星から帰る為には今の装備では不可能ですし……」

「そうか。それじゃあアカツキ、住む所の手配を頼む」

「いいよ。決まり次第連絡するよ、それでいいかな?」

「はい、部屋は同じ部屋でお願いします」

「ルリちゃん!?」

「へぇ? テンカワ君も隅に置けないなぁ。
 じゃあ、そろそろエリナ君に気づかれそうだから帰らせてもらおうかな、準備もしなくちゃいけないし……なにより馬に蹴られたくないしね」

「しょうがないか……ほらアカツキ、早くフィールドに入れ」

「りょーかいりょーかい、じゃあ行こうか」

「……目標、ネルガル会長室。・・・・ジャンプ」

 

―数分後―

 

「ただいま、ルリちゃん」

「おかえりなさい、アキトさん。随分遅かったですね」

「ああ、アカツキにいろいろと言われてね……」

「そうなんですか。それではアキトさんはこれからどうなさいますか?」

一通り調べ事が終わったのかルリが今後の予定をアキトに尋ねる。

「そうだね……俺は新しくなったサレナのチェックをするよ。AIの名前とサレナの新しい名前も決めないといけないしね。
 その後はシミュレーションルームで実際にどれ位性能が上がったのかテストしてみるよ」

「そうですか。それでは私は先にシミュレーションルームに行って、ユーチャリスUのデータを使って少し演習をしてみます」

「そうか、無理はしないようにね。もう夜も遅いんだし」

アキトにそう言われて時計を見るルリ。時刻は既に午前0時を過ぎていた。
まあそれは地球時間、それも一部の国限定の話なので本来はどうでもいいのだが。

「そうですね、わかりました。アキトさんも程々にお願いしますね」

「ああ、じゃあ行ってくる」

「はい、頑張ってください」

「ありがとう、ルリちゃんも頑張ってね……ジャンプ」


―格納庫―


「……外見は随分変わってたが中はそうでもないんだな」

どうやらアキトは直接サレナの中にジャンプした様だ。
ううむ、こんなに頻繁にジャンプばかりしていると運動不足になりそうだ。
尤も、普段から鍛錬を怠らないアキトには関係のない話だが。

「それじゃあ早速チェックするかな」

そう言うと起動シーケンスを立ち上げる。するとサポート用のAIが出てきた。

【おはようございます、マスター】

「ああ、おはよう……・」

【なにか……?】

「……まずは君の名前を決めないとな」

【ありがとうございます】

「どんなのが良いかな……」

【名前はマスターが独自に考えたものでお願いします。
 その他の設定は、コンソールパネルで変更できますが?」

「設定?」

一体設定とは何のことやら。
とりあえず彼女の説明に従い、コンソールパネルを開くと、そこには理解不能な事が書かれていた。

「……とりあえず、まず名前を決めよう。
 そうだな……コクリコなんてのはどうだ? 俺が以前、育てたことのある花なんだが……」

【マスターが育てられた花の名を、私に付けてもう一度育ててくださるなんて、とても素敵な事です。
 ありがとうございます、マスター。その名前を頂きます】

「それじゃあ君の名前はコクリコだ、これからよろしく頼む」

【こちらこそ、よろしくお願い致します】

「じゃあ本題に入ろう。コクリコ、このコンソールに並んでいる『属性』やら『語尾』とかはなんなんだ……」

そう、コンソールには属性、語尾からはじまりフェイスエディットや身体のサイズの設定画面まで並んでいたのだ。

【この場合の属性とは、数世紀前より流行を始めた『萌え』というジャンルの属性だそうです。
 母……アルメリアに、男性はそういうのが好きと聞いたものですから……】

恐るべし遺跡の管理者。
一体どこでどうやってそれらの知識を身に付けたのだろうか……。

「……いや、いい。君の基本はこのままで、後は君の独自の成長に期待する」

【そう言って頂けると嬉しいです】

「じゃあ次はこの機体……そうだ、この機体の名前も決めるんだったな」

そういって名前を考え出すアキト、するとコクリコが話し掛けてきた。

【この機体の名前ならもう付いてますよ】

「そうなのか?」

【はい、アルメリアがこっちに着いたらマスターに教えてあげなさいと……】

「そうなのか、それじゃあ教えてくれ」

【この機体の名前はフリージアといいます。ですが、アルメリアは変えても良いと言ってたましたから、改名してもよろしいかと】

「いや……フリージアか、良い名前だな……・よし、その名前にしよう」

【了解しました】

「それじゃあコクリコ、フリージアの性能を表示してくれ」

【少々お待ち下さい】

そう言うとサレナのモニターにフリージアの図が出る。

外観で変わった部分は先ずはその大きさだ。ブラックサレナが8メートルだったのに対し、この機体は15メートルもある(エステバリスの2.5倍)

そして胸周りの装甲がスリムになり、姿勢制御の補助をするテールバインダーが少しばかり厚めになっていた。

【ブラックサレナの性能と比較してみます】

「ああ、頼む」

【まずカタログスペックでは機動力が以前よりも6倍、装甲が2倍、武器出力・DF出力が15倍になっています。
 「〜倍」て言われてもよく分からないと思うので、数値にして考えると、こんな感じとなります】

コクリコがそう言うと、表の様な物が出てきた。

[エステバリス初期型]
 装甲MAX500(砲戦フレーム時) 機動力MAX600(空戦・0Gフレーム時) 出力400

[スーパーエステバリス]
 装甲1000 機動力1000 出力1000

[ブラックサレナ]
 装甲1300 機動力2000 出力1600

[フリージア]
 装甲2600 機動力12000 出力24000

「……どんな化け物だよ」

恐らく……いや、絶対に未来の技術でも太刀打ち出来ないだろう。

【ですが、これはフリージアのシステムを開放した時の数値なので、リミッターを掛ければ出力を押さえることができます】

「そうか、それじゃあ出力とかの設定は説明が全て終わってからにしよう。コクリコ、続きを頼む」

【分かりました。背中のバインダーは片側6枚、計12枚のベーンで構成されていて、それを展開することで高機動戦闘が可能になっています。
 その6枚のベーンの間にグラビティブラストが格納されています】

「……なんだかどこかで聞いた様な装備だな」

某ロボットアニメの、某暴れん坊将軍な主人公が乗っている、何でもアリなロボットに似ているような……。

【武装は、砲撃戦用装備としてハンドカノンの代わりにレールカノンが2門、貫通力はこの時代のディストーションフィールドなら紙のように貫ける筈です。
 次に先程も説明したグラビティブラスト。これはナデシコの五倍程の威力でリロードが速く、結構連射が効くので利用する事が多いかと。
 リロードが早いと言っても、あまり無理に撃ち過ぎるとオーバーヒートする危険がありますので気を付けてください。
 後は30連マイクロミサイルポッドが五つ、ポッドは両肩・脚部と背中に装備されています。
 それと、胸部の装甲の形状が腕に干渉しないようになった為、接近戦用のが小太刀が二本。
 普段はサイドアーマーに装備されていて、二つを連結して両刃の薙刀として使うことも出来ます。
 それと、近接格闘用のクローに、抜刀術用の日本刀。抜刀術は流石に装甲を外した状態でないと出来ませんので、注意してください。
 そして、最後の切り札としてブラックホールキャノンが装備されています】

「なっ……!? BFキャノンだって!?」

『ブラックホールキャノン』……かつてナナフシが搭載していたものが『マイクロブラックホールキャノン』だ。あれは直撃はしなかったものの、ナデシコのDFを紙の様に貫通した。
イネスが言うには、あれが直撃していたら周囲50キロメートルは消滅する代物だったらしい。
マイクロブラックホールキャノンであの威力だったのだから、完成型ともなると恐らくとてつもない威力なのだろう。

【何故装備されているのか、また、どの様な局面で使用すればいいのかは私には知らされていません】

「……そうか、すまない。説明を続けてくれ」

【分かりました。これはナナフシに装備されていた物の完全版で、発射するのにナナフシは数時間掛かっていましたが、これは一時間位で発射準備が整います。
 威力は目標に命中した後、半径100キロメートル以内の物体を巻き込んで消滅する最強の兵器です。
 ですが、撃てるのは一度だけ。一度でも撃つと砲身も衝撃で崩壊するので、本当に危険な時にしか使わないでください】

「なるほど、本当に『切り札』か。……他にまだ何かあるか?」

【最後にDRAGOON(ドラグーン)システムの説明をします】

「ドラグーンシステム?」

【正式には「Disconnected Rapid Armament Group Overlook Operation Network SYSTEM」と言います。
 直訳すると分離式統合制御高速機動兵装群ネットワークシステムという事なのですが……イメージできますか?】

「……ぶっちゃけた話フ●ンネルとかビ●トの様な物だろ?」

【イメージ的にはそうなります。IFSを使った思考制御となっていて、これを制御するには特殊なIFSと技力が必要なので、マスターしか扱えない使用となっています】

ちなみにこの世界、過去のアニメの再放送がやたら流れているらしく、一部では萌えと燃えが再燃。
萌えではサクラ大戦、スーパー系はゲキガンガー、リアル系はガンダムとなっているらしい。
後日、アキトが「アルメリアもアニメ観てたのか?」とコクリコに訊いたところ、彼女は無類のスパロボ好きとか何とか……。
なんという事だろう、遺跡の管理者は重度のオタクで、しかも少し厨二病が入ってるらしい。
とりあえず、この世界とはあまり関係ない設定の様なので、これ以上は割愛する。

「そうか……動力は?」

【主に二つの超小型相転移エンジンをから安定した出力を供給しています。
 地上などエンジンの反応が悪い場所では、小型核融合炉との併用で出力の低下を防いでいます】

「小型相転移エンジン……ね。なんだかとんでもない機体だな」

というかフリージアとユーチャリスUで木連なんて簡単に潰せるぞ……絶対。

【ちなみに相転移エンジンは、一基のエンジンでナデシコC一隻分の出力に相当します】

「エンジン一つでナデシコ一隻分って……。それならエンジンは一つだけで、核融合炉は必要ないんじゃないか?」

【普通だったらそうなるのですが、この機体はエネルギーの消費量が半端ではありません。なので最低でもエンジンは二つないとダメなのです。
 それと相転移エンジンは追加装甲のユニットの一部で、核融合炉はエステバリス本体に搭載されているので殆ど無限に動くことが出来ます。
 ですが、追加装甲をパージした状態ではグラビティブラストを使用するには、エネルギーが足りません】

既にもうエステバリスでは無くなっている。これでツインアンテナにしてトリコロールで塗れば……(以下自主規制)
しかし、一体どうやったらこれだけの性能を引き出すことが出来るのだろう。

「……わかった。それじゃあコクリコ、機動力は2倍、武器出力は3倍位に下げてくれ。それと、BFキャノンは封印する。……こんな兵器、人間相手に使うものじゃない」

【分かりました。解除コードのほうはどうしますか?】

「そうだな……『ネメシス』にしようか」

【ネメシス……ですか?】

「ああ、ギリシャ神話に出てくる女神の一人だ」

【了解しました。それではそれで設定をします】

「頼む……ってそういえばシステムの名前を聞いていなかったな」

【申し訳ありません、マスター】

そう言ってウインドウ越しに謝ってくるコクリコ。
するとコクリコのウインドウの隣に新しく「Identification withDarkness」の文字が書かれたウインドウが開かれた。

「イド?」

【はい。精神分析学で、個人の無意識の中にひそむ本能的エネルギーの源泉をいう言葉です】

「なるほどな、システム「イド」……本能的エネルギーと闇との一体化か……」

【マスター、システムの設定が完了しました】

コクリコがシステムの設定を終えてアキトに次にやることを訊いた。

「次は実際にシミュレーションをやってどれ位性能が上がったかを確かめてみよう……っとその前にルリちゃんに言っておいた方がいいな」

そういうとアキトはルリのコミュニケに通信を入れた。

≪アキトさん、どうかしましたか?≫

「ああ、ちょっと今からそっちに行くね」

≪わかりました。私は現在戦略用ステージに居ますので、機体に慣れたら連絡を下さい≫

「わかった。それじゃあ、行ってくる」

そう言うとアキトは通信を切り、シミュレーションに向かった。

 

―シミュレーションルーム―

 

「よし、それじゃあ始めようか」

【レベルはどうしましょうか?】

「そうだな……Aから始めよう」

ちなみにレベルはDから始まり、C・B・A・S・SS・SSS・無茶苦茶・カオスがある。

【了解しました。対戦相手はどうしますか?】

「対戦相手は火星の後継者の主力艦隊。機動兵器は全て夜天光クラスの機体にしてくれ、パイロットは全員北辰レベルだ」

【……準備ができました】

「よし、始めるか」

【それでは、参ります……Ready……GO!!】

コクリコの合図でシミュレーションが始まった。


「これは……中々凄いな。出力を押さえた状態でこれほどまでとは……」

三機で編隊を組み、あらゆる角度から攻めてくる夜天光。アキトはその内の一機に狙いを定め突撃し、包囲を突破する。
以前のアキトとブラックサレナの攻撃は、北辰クラスのパイロットであれば確実に避けることが出来た攻撃だが、今のアキトの攻撃を完全に回避できることは不可能だった。

「よし、今度はドラグーンを使ってみよう。……コクリコ、サポートを頼む」

【了解です】

そういうとフリージアの肩アーマーから無数のポッドが射出された。

【これはマスターが考えた通りに動きますので、相手がどの様に動いてくるかを予測して攻撃するというのが上手く操作するコツです】

コクリコは軽い感じで説明してるがこれは普通のパイロットでは絶対に無理な操作だ。
エステバリスの操作にはIFSが採用されているが、これはその名の通り自分のイメージした行動をエステバリスに伝えて操縦するシステムだ。
その為、普通のパイロットはどの様に動き、どの様にして敵を攻撃し、どの様に敵の攻撃を回避するかという行動を全て一瞬の内に考えなくてはならない。
それだけでも大変な作業だというのに、アキトは更に相手の動きを予測し、攻撃するドラグーンシステムを操作するというのだ。
恐らく、アキトがオペレーター用のIFSと技力、そしてオモイカネ級サポートAIのコクリコの力がなければ完全に操ることは不可能だっただろう。

「なるほど。……よし、行けっ!」

ドラグーンで次々と敵を堕とすアキト。
とても初めてとは思えないほどの正確さだ。

「……よし、それじゃあフルパワーで行ってみようか」

【了解。……準備完了、解除コードをどうぞ】

「……システム解放、コード……『ネメシス』!」

アキトはシステムを解放し、背中のバインダーを展開させ高機動モードに移行する。
すると脚部、腕部、背部から余剰エネルギーが放出される。
それはまるで光の翼だった。

「よし……!いくぞっ!!」

フリージアのスラスターを吹かし、敵に突撃するアキト。すると今までに無いくらいのGがアキトを襲った。

「くっ……これがフルパワーか……!!」

アキトは機体の性能を感じながら敵を倒していく。
最終的に、アキトがフルパワー時でカオスをクリアするのに1時間と掛からなかった。
その後、ユーチャリスUのシミュレーションを終えたルリと合流したアキトは木連の全勢力を相手にシミュレーションを行った。
果たして結果は、アキト達の完全勝利に終わった。

「……まさかとは思ったが、本当に全滅させてしまうとはな……」

「はい、やはりBFキャノンが決め手でしたね」

二人が木連を全滅したのはシミュレーションを始めて僅か1時間程度だ。
BFキャノンを使用しなくても6時間程で殲滅することができた。

「……やはりこの兵器は封印すべきですね」

「ああ、俺もそう思ったから既に封印を施した。とりあえず、今日はもう休もうか。ルリちゃん」
「はい、アキトさん」

そういってシミュレーションルームを後にし、居住区に向かうアキトとルリ。

「ルリちゃんはラピスが使っていた部屋を使ってくれ」

「あ、あの……アキトさん」

「ん?どうかしたのかい?」

何故か顔を真っ赤にして下を向いてしまったルリ。

「えっと……その……い、一緒に寝てくれませんか?」

その言葉を聞いて今度はアキトが顔を真っ赤にしてしまった。

「る、ルリちゃん!?い、一緒に寝るって、その……えっと……」

「私じゃ……嫌ですか?」

そういってアキトを上目使いで見つめるルリ。
これを見たアキトはルリのお願いを承諾してしまうのであった。

「それじゃあ……おやすみ、ルリちゃん」

「……はい、お休みなさい。アキトさん」

 

 


そして、二年後…………

 


―サセボドック―

 

「いかがですかな?テンカワさん、ルリさん。これが我が社「ネルガル」が誇る新造戦艦『ナデシコ』です」

 

 

 

第三話「出撃」に続く


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