「くそ……っ、エステ隊は!? 状況はどうなってるっ!?」

「エステバリス隊は全機健在、降下してきた敵ゲキガンタイプ4機と接触。
 内、1機は既に撃墜。現在残りの3機と交戦中です」

報告に、軽く舌打ちをする。
ナナフシの周囲が砲台に囲まれていたという事前情報を基に、拡散させたグラビティブラストを照射しこれを破壊。
そこまでは良かったが、山影から突如テニシアン島で交戦したものの改良型と思われるジョロが出現したのだ。
既にナナフシはその機能を停止し、ただのガラクタと成り果てている。
この状況であればナデシコは上昇し、山影から攻撃している大型ジョロを砲撃することも可能だ。

だがしかし、それが出来ない理由がナデシコにはあった。


「どうするんです、艦長!?」

「このままでは、いくらディストーションフィールドと言っても……持ちこたえられますかな」

「ミスターの言うとおりだ。時継、ディストーションフィールドの性質を忘れた訳ではあるまい」

「でもさぁ、ナデシコがどいちゃったら『あの子』危ないんじゃない?」

「確かに危険ですが、このままではナデシコも危険です。どうします? 艦長」

皆の言う事も尤もだった。
だけど、今ここでナデシコがどいてしまったら…………。

「―――――セイヤさん、俺のエステ……準備して貰えますか?」

≪おう! いつでも出れるぞぉっ!!≫

「サンキュー、セイヤさん。――ルリちゃん、悪いけどあと任せるよ」

「わかりました」

指揮系統をルリちゃんに回し、俺は格納庫へと向かった。

――――何故だ。何故、あの子が……この世界に居るっ!?

そんなことわかる筈が無い。
いくら考えても答えが出る訳が無い。
今は彼女を救出することが最優先だった。

 

機動戦艦ナデシコ
時をかける者達

-第二章-

第二話「それは、偶然で必然の出逢い」

 

 


――二日前――

「ここは……そんなに変わらないな」

ここは横浜にある山下公園だ。
元居た世界と若干の違いはあるものの、本質的な部分は変わっていなかった。
色々な思い出がある場所なだけに、それは喜ばしいことだった。

「だからって、恋人の溜まり場ってとこまで同じじゃなくても良いと思うんだがね……」

俺はそのまま港がみえる丘公園へと向かう。
ここも見える景色や建物に差異はあるものの、俺の記憶にある場所とそこまで変わりは無かった。

「故郷……かぁ……」

故郷、それは自分が生まれた場所。
人によっては一生をそこで過ごすこともあるだろうし、第二の故郷へ移る人もいるだろう。
それでも生まれた場所は一つだけだ。

しかし、時空を越えこの世界にやってきた人間にとって、故郷と呼べる場所は存在しなかった。

「…………変わらないこの場所こそ、俺の故郷か…………いや、全然違うか」

それは所詮、己の願望でしかない。

場所、地名は全く同じでも、そこは自分の知っている故郷ではない。
歴史が違えば発展の仕方も違う。
時間軸が違えば、親しかった友人は勿論、家族の姿すら無い。
時空間すら違うのであれば、存在した形跡すら在り得ないのだ。
理解していたことではあるが、それでも若干の寂しさを消すことは出来なかった。

ナデシコには大勢の仲間、友人がいる。
アキトは現在不在だが、同じく時空を越えた存在であるルリがいる。


――だというのに、どうしてこうも寂しいんだろうか。

「思い出は思い出のままにしておくべきだったかねぇ……」

ベタな展開だったら、ここで少女が出てきて運命の出会いが――――

「なんて、いくらなんでもベタ過ぎるか。つーか、そんな展開誰も望んでねーっての」

自嘲と溜息を吐きつつ、俺は公園を後にした。


――連合宇宙軍極東方面司令部――


「南雲時継、入ります」

重苦しい雰囲気の扉を開け、これまた重苦しい雰囲気の部屋へと進む。
ここは横浜にある連合宇宙軍極東方面司令部だ。
司令部とあるようにここが極東方面の中枢となっている。

「やあ時継君、久しぶりだね」

「はい、ミスマル提督もお元気そうで」

「まあまあ、そう硬くならないで良いよ」

「そうそう、ナデシコにいる時みたいにもっとリラックスすると良いよ」

「いや、流石にこういった場所であのテンションは……ってアカツキがなんでいるんだ?」

「それほど重要な内容って事なのよ、時継君」

入口からは死角で見えなかったが、部屋にはアカツキとエリナがいた。
確かに、この二人が居ると言う事はただ事では無さそうだ……。

「とりあえず座ってくれたまえ」

「はい、失礼します」

コウイチロウの言葉に従い若干身体をリラックスさせ、ソファーに腰掛ける。
すぐさま当番兵が紅茶の入ったティーカップと、苺のショートケーキを用意する。

「何て言うか……相変わらずですね」

「頭を使うときはね、糖分が大事なんだよ?」

「仰る通りで」

予想通りの答えが返ってきたことに苦笑しつつ、ティーカップに入った紅茶に口をつける。
アールグレイの香りが更に身体の緊張を解してくれたような気がした。

「それで、今回はどんなご用件で?」

一通り午後のティータイムを堪能した後、話を切り出す。
民間企業からの出向とは言え、一応ナデシコは戦艦であり連合宇宙軍と共同作戦を行うことも当然ある。
故にこうやって艦長が連合宇宙軍の基地に召喚されるという事はありえないことではない。
しかし今回は、ミスマルコウイチロウ直々の召喚、そしてネルガル社長のアカツキと秘書であるエリナまで召集しての会議だ。
何か特別な事情があると考えるべきだろう。

「先日、ロシアのクルスクに落下した敵新型兵器のことは?」

「ナナフシですね?」

「そう、そのナナフシの殲滅をナデシコに行ってもらいたい」

「了解しました。……しかし、それだけではないでしょう?」

「うむ……。先日からクリムゾン諜報部の動きが活発になっているのは知っているね?」

「ええ、報告書は読みました」

「この間渡したその報告書には、活発になった理由が書かれてなかっただろう? それがつい先ほど判明してね、こうやって集まったということさ」

「なるほど……。それで、原因は?」

「なんでも、クリムゾンの研究所から脱走者が出たらしい」

「まだ……クリムゾンの研究所があったんですか」

「潰しても潰しても沸いて出てくる。……まるでゴキブリね、本当に」

「容赦ないねぇ〜エリナ君は」

「クリムゾンの研究所ということは……研究員ですか?」

「いや、それがまだわからんのだよ。ただ……かなりの人員が捜索に充てられてるらしい」

「つまり、それほど重要な人物って事ですね」

「そういうこと。ところで、どこに研究所があったか気にならないかい?
 ネルガルとアキト君が総力を挙げて潰してきたのに、まだ研究所は存在した。
 偵察衛星やルリ君のハッキング……ありとあらゆる手段を用いて探し出したのに、奴らはまだ研究を続けていた。
 奴ら、どこで研究を行っていたと思う?」

月……はネルガルが押さえてるから無理だろう。
火星は現在木連が支配しているが、クリムゾンからの脱走者と言うからには地球上にあった筈だ。

「まさかチューリップに偽装した研究所……なんてことはないよな」

「残念ながら外れだよ。流石にそれは熱源探知や磁気反応でわかるからね。
 正解は……ロシア支部だよ」

「……そんな馬鹿な。記録ではロシア支部に研究設備なんて無かった筈だぞ」

「それは君たちの歴史だろ? 僕たちの歴史ではあった……そういうことさ。
 でもまあ、驚くのも無理はないね。僕たちも色々と調査はしていたんだけども、ロシア支部に研究施設があったなんて寝耳に水だったんだから」

「そうね……でも、まだ研究施設と決まった訳じゃないわ。
 クリムゾンから脱走者が出て、諜報機関が全力でそれを追跡しているという情報があるだけ。
 権力を持った幹部が脱走するのであれば、ライバル会社であるウチに来るのが手っ取り早いもの。
 一応念のためその筋でも調査を進めたけど、主だった幹部は全員白だった。
 だから脱走したのは……というか脱走する動機を持つのは研究対象者という結論に至っただけの話よ」

「まあとにかく、クリムゾンという組織が全力で捜索するような人物が脱走したというのは確かなのだよ」

「……わかりました。それで、俺はどうすれば?」

「まあ、有り体に言うとその人物を保護しろってとこだね」

「これを見たまえ」

壁にあったスクリーンに、衛星写真が映し出される。
映し出された場所は、ナナフシが占領しているクルスク工業地帯だった。

「ロシア支部はね、ここと目と鼻の先の距離なのよ。
 現在、全世界のネルガルとクリムゾンの諜報機関が脱走者の捜索を行っているのだけど、唯一捜索出来ない場所がある」

「なるほど、占領地域か」

いくら木連とクリムゾンが裏で繋がっているとは言え、占領された地域で諜報機関が平然と活動していれば関係がバレてしまう。
恐らく占領されている地域は木連側が捜索するという手筈なのだろう。
そしてロシア支部とナナフシが占領した地域は目と鼻の先にある。
他の場所で見つからなければこの地域に居るとみて間違いないだろう。

「ナデシコは速やかにナナフシを殲滅、クルスクを奪還し脱走者を保護せよ」

「脱走者が敵対行動を取った場合は?」

「その場合は、殺さないで捕獲って感じかねぇ」

「……そういう事だ」

「了解しました」

「話は以上だ。時継君はナデシコへ戻り、物資搬入と出港の手続きを行ってくれたまえ」

ナナフシ殲滅の指令書を受け取り、部屋から退出する。
アカツキとエリナはまだコウイチロウと話し合うことがあるらしく、残ることになった。

「しかし……」

――どういうことだ?

横須賀ドックへ向かう車の中で状況を整理していく。
クリムゾン側からの脱走者……これは史実ではありえなかったことだ。
いや、アキトたちに関わりが無かっただけでもしかしたらあった可能性もある。
だが全組織を挙げての捜索となると……ただ事じゃない。

「……これも、このシナリオには無い出来事か」

まあ俺という存在がここにある時点でシナリオと随分違ってるから今更という感じか……。
その理由というか原因は……何となくだが説明出来る。
しかしそうなってくると、脱走したというのは――――

「――――まさか、あの子が…………?」

いや、彼女は別だ。
彼女は“このシナリオ”には組み込まれてはいない。
それこそ本当にベタなシナリオだ。
だけど、もし……彼女だったとしたら…………これからの戦いは更に厳しく、複雑なものになるかもしれない。


――21時間前――


「それでは提督、ナデシコは予定通りクルスクへ向かい、ナナフシの破壊を行います」

≪うむ、よろしく頼むよ≫

物資の積み込み作業を予定通りに終えたナデシコは、史実よりも数週間ほど早くナナフシ殲滅の為にクルスクへと出港した。


「んじゃ目的地に着く前に、今回の目標について説明しようか。
 イネスさん、軽くで良いんで説明お願いします」

そう言うと時継は下がり、イネスが受け継ぐ。
――ちなみに、その際に
「全く、やっと私の出番が回って来たわ……。
 説明するシーンは沢山あるのにどうして私に出番が回ってこないのよ……」
と愚痴をこぼしていたとかいなかったとか。

「さて、久しぶりの出番だから張り切って説明するわよ。
 まず最初に、今回私たちが殲滅するのは木星トカゲの新型兵器、通称『ナナフシ』よ。
 これは半年ほど前にあった木星トカゲの第五次地球降下作戦で討ち漏らしたチューリップから出現したらしいわ」

「ん、ちょっといいか?
 半年前ってことは、オレたちが地球に戻ってきた頃には既に出現してたって訳だろ?
 なんでもっと早く殲滅作戦が出されなかったんだ?」

「当時の連合軍はまだ戦力の立て直しが出来ていなかったからよ。
 このチューリップ、最初は地球の色々な場所を巡回してチマチマと攻撃をしていたんだけど、ある日旧ロシアのクルスク工業地帯へ侵攻。
 周囲に無人兵器をばら蒔きながら着艇、そして中から出てきたのがナナフシだった……という事よ。
 この間、テニシアン島であった新型ジョロと同じようなパターンかしらね」

「ということは、あれくらい強力な敵って思った方が良いのかな?」

「あの程度で済めばいいけれどね……これを見て頂戴」

イネスがコミュニケを操作し、大型のウィンドウを投影する。
そこには何やら様々なグラフや数値が書きこまれていた。

「このグラフには偵察衛星や周辺に設置された観測機からのデータが書きこまれているわ。
 データによると、ナナフシ本体周辺でかなりの重力異常が検知されてる。
 これはディストーションフィールドやグラビティブラストなどの使用による重力偏向と同じものだけど、出力が桁違いに高いのが特徴。
 ナナフシの形状が砲台になっていることから、ナナフシの正体は小型のブラックホールキャノンとほぼ断定されたわ。
 で、そんな危ない兵器を破壊するのに通常の部隊じゃ太刀打ち出来ないって事でナデシコが派遣されることになった……というのが今までの流れよ」

一応ナナフシの性能は既に関係者、つまりイネスには伝えてあるのだが歴史改編により影響がある可能性を考慮し、念のため調査したのである。
ついでにどうして観測機がナナフシによって撃ち落とされなかったのかを説明すると、ユーチャリスIIに搭載してあるバッタを使用したのだ。
戦闘能力は皆無だが、一応情報収集能力も付加されている上に、木連のIFFも搭載しているので撃ち落とされる心配も無く調査出来たという訳だ。
ちなみにこのバッタはアキトが技術提供の為にネルガルの秘密工廠に置いてきた内の一機である。

「でもよ博士、木星トカゲの技術力がいくら高いって言ったって、ブラックホールの生成なんて本当にできんのか?」

「そうね。まだ実際に発射された訳じゃないから本当にブラックホールキャノンかはわからないわ。
 採取されたデータから、小型のブラックホールを生成出来る可能性が高いという結論と砲身が付いているという情報を組み合わせた推察に過ぎないわ」

「それじゃあ、山影からグラビティブラストによる長距離砲撃なんかはどうかな?」

「それじゃ駄目よ、ヒカル。もしあれがブラックホールキャノンならナデシコなんてあっという間にお陀仏だよ」

「マキ・イズミの言う通りよ。
 本当にあれがブラックホールキャノンなら、戦艦クラスのディストーションフィールドなんて紙のように貫通されるでしょうね」

「ああ、イネスさんの言うとおりだよ。
 ちなみに同じような作戦を立てた人物が軍に一人だけいたんだけど、その人が立案した作戦をシミュレートしたところ、98.7%の確率でナデシコ消滅という結果に終わったよ」

勿論、その人物とはミスマル・ユリカである。
史実においては、ブラックホールキャノンだという情報が無かったから仕方ないと言えるが、情報のある現段階においてもこの結果というのは実に悲惨だ。
ちなみに軍の保守派はユリカを指揮官にして攻略作戦を行う方針だったらしいが、この結果をみてナデシコに依頼、というか改革派が無理矢理主導権を握った訳だ。
一応誤解の無いように書いておくが、この結果はユリカの指揮が原因という訳ではない。
シミュレーションとは言え無敗を誇り、史実でも奇抜な作戦で大戦を生き抜いたのだから無能な指揮官という訳ではないのは知っての通りだ。
では何故尽く失敗に終わったのか。
これは実に単純な話で、戦力不足が原因だった。
現時点でエステバリスは量産体制にあり、史実よりも数段性能が上がったタイプが稼働している。
バッテリーも従来のものより改良され、2倍以上の稼働時間が確保されている。
ユリカは当初ナデシコ級の戦艦一隻に加え、エステバリス二個小隊という編成でシミュレートを行った。
結果は失敗に終わり、その後は作戦を変えたりしたものの全滅。
最終的にナデシコ級二隻とエステバリス一個大隊という戦力を用いてなんとか勝利という形であった。
しかもナデシコ級二隻の内、一隻はブラックホールキャノンに撃沈されている。
これだけの兵力を用いても、勝利する確率は僅か1.3%しかないのだ。
史実で勝てたのはパイロットの腕と運に他ならない。
ようするに、一般の兵力ではユリカの提案する作戦を実行しきることが出来ないということだ。
ナデシコチームだからこそ、ユリカの能力が100%発揮出来たのだ。

「という訳で、俺たちに出番が回ってきたってことね」

「で、どうやって攻略するんだ?」

「それについては私が説明します。
 ……オモイカネ、お願い」

【アイ、マム】

オモイカネが映し出したウィンドウには、何やら大きな筒の様な物体が映し出されていた。

「これは、私たちが地球圏を脱出する際に破損したビッグバリアの発生器です。
 破損してからずっと同じ宙域を漂っていたんですが、今度新型の発生器が完成し、配備される為全機廃棄されるそうです」

「え……ルリルリ、もしかしてコレを……」

「そうです、これに制御用のスラスターを付けてナナフシ目掛けて再突入させます」

「再突入って……もし人がいる場所に落ちたらどうするんですか!?」

「大丈夫ですよ、メグミさん。突入角や速度の計算はオモイカネとセイヤさん、それにイネスさんが既に出してますから」

「でもよぉ、発生器って確かかなりデカいんだろ? んなもんを地上に落としたら、確かにナナフシはぶっ壊せるだろうけど、地上に影響だってあるんじゃねぇのか?」

「大丈夫だよ、リョーコちゃん。
 よく考えてみてよ、空から巨大な鉄の塊が降ってくる、それが当たれば消滅は間違いなし……そんな状態で、リョーコちゃんならどうする?」

「そりゃオメー、迎撃するに……あ、そういうことか」

そういうことだった。
ナデシコよりも先に自身に対して脅威となる物体が近付けば、ナナフシはそれを確実に迎撃する。
問題はマイクロブラックホールを何時間で生成可能かということだが、イネスさん曰く質量をみれば予測可能とのことだった。
ナデシコは射角に入らない場所で待機し、ナナフシが砲撃を行い次第対空砲の射程距離ギリギリまで侵攻しグラビティブラストで目標を撃滅。
その後はエステバリスによる敵無人兵器の掃討戦という段取りになっている。

「という訳で、エステバリスの出番は最後の方になるかな。
 ああ、でも一応各自出撃態勢は取っておいてね。何が起きるかわからないのが実戦だからさ」

既に各自のエステバリスは改造を終えている。
後は作戦空域に到着するまで慣熟訓練を行えば大丈夫だろう。
という訳で、ナナフシ攻略戦の準備は着々と進んで行くのであった。


―――同時刻、某所―――

静寂に支配された部屋に、一人の男が居た。
男の手元には一枚の報告書。
一通り読み終えたのか、男はそれを机の上に放り投げる。

「ふん、アレをガラクタで押しつぶそうという魂胆か。
 野蛮な地球人のやりそうな事だ……」

嘲笑するように呟くと、男は手元にあるスイッチを押す。

「私だ。新型の実戦テストを行う。―――そうだ、例の実験も同時に行うと伝えよ」

その後、詳細な指示を伝えた男は、今度はスイッチを押すことなく呟く。

「例のクリムゾンから脱走したという小娘の消息はどうなっている」

その呟きに、何者かが応じる。

「現在クリムゾンの諜報部が捜索中とのこと。
 恐らくはクルスクへ逃げ込んだものと思われます」

「七人衆を向かわせよ」

「は――、身柄は」

「殺すな。ただし、生身で無人兵器を破壊するような娘だ……油断はするなと伝えよ」

「御意」

簡潔に呟くと、部屋は再び静寂に支配される。

「……ネルガルの玩具、にしては出来過ぎているな。火星の包囲網を単機で突破した機動兵器といい……遺跡の件、急がせねばならんな」


――再びナデシコ――

「それで、どんな感じですか?」

「おう、時継かぁ! アキトのアレには及ばねえが、少なくとも地球上では最強の機体と言ってもいいぞ!
 なんたって、このウリバタケセイヤ様が最高の設備と最高の資材、最高の技術で改造したんだからな!!」

「それは楽しみですね」

技術力は高くても性格に難あり。
ナデシコに居る連中の殆どが当てはまることだが、特にウリバタケの技術力は計り知れないものがあった。
史実ではナデシコ内部にある施設だけでXエステバリス、通称「エクスバリス」なるものを開発し、いつの間にかナデシコの各ブロックをディストーションフィールドで覆う「ディストーションブロック」まで開発したのだ。
残念な事にエクスバリスは欠陥品だったが、それは彼が個人的に開発を進めていたからに過ぎない。
完全なバックアップが付いた場合、既存兵器の二歩以上は先を進むことが可能になるのは明白だった。
現に、史実と比べて早期からウリバタケを引き抜いた事により、ナデシコやエステバリスの性能は史実よりも数段性能が良くなっていた。
勿論、アキトたちの未来知識が関与しているということもあるが、それを差し引いてもウリバタケの技術力が世界一なのは間違いないだろう。

「リョーコちゃんたちには?」

「おう、とっくに説明してあるぜ。お前さんで最後って訳だ」

「てことは、みんな今頃シミュレーターで訓練をしている感じですかね」

「多分な。何せコイツは今までのエステとは全く別の代物だからなぁ。
 いくらリョーコちゃん達でも、いきなりあの機体は使いこなせないだろ」

「そこまで言っちゃいますか……。余程自信があるみたいですね」

「応よっ!! お前さんの持ってきてくれたアレのおかげで、かなり無茶出来るようになったからな!」

「それはよかった。でも流石ですね、アレを完成させるなんて……渡しておいてなんですけど、驚きましたよ」

「まあな! ……と言いたいとこだが、実は100%完成してる訳じゃあねぇんだよなぁ。
 一応パイロットへの負荷を若干減らすことには成功したってとこだ」

完全なバックアップが付いていながらも、ウリバタケが100%完成させることが出来なかったアレとは何か?
勿体ぶっても仕方ないので解説すると、慣性制御装置、いわゆる「イナーシャルキャンセラー」である。
古代火星文明のお陰で重力制御の技術が飛躍的に進歩し、初歩的な制御装置自体は既に実用化されている。
エステバリスにも一応搭載されてはいるものの、急激な加速や機動を完全に制御するには至っていない。
これを解決する為に、各機動兵器には各種リミッターが設けられている。
このリミッターと制御装置を組み合わせることでパイロットを保護しているのだ。
通常よりも機動性の高い機体に搭乗する際は専用の対Gスーツを着用する必要がある。
戦後、地球側より早く火星文明を解析していた木連の技術陣との共同開発により完全制御可能な装置が完成するが、やはりエステバリスなどの機動兵器では従来の装置が使用されている。

「これで、あいつらの機動にも対抗出来るか……」

木連の軍人は地球人に比べて高Gの負荷に慣れている。
それは木星の重力加速度が地球より高いからだ。
日常生活では流石に重力制御を行っているが、訓練では過酷な環境に慣れる為に制御を行っていない。
特に北辰たちのような暗殺などの特殊任務を受け持つ部隊では通常の部隊以上に過酷な環境で訓練を行っている。
その高い身体能力が、傀儡舞などの変則的な機動を実現させているのだ。

操縦技術では将来的には北辰以外のメンバーを圧倒するまでに成長するが、北辰と直接交戦した訳ではないので実力差は未知数だ。
現状では恐らくギリギリの戦いになる可能性が高い。
それも火星の時のような鈍足なジンタイプではなく、機動性の高い六連や夜天光が相手となると負ける可能性が遥かに高くなるだろう。
そして恐らく、機動性の高い有人兵器が登場するのも時間の問題の筈だ。

「――そうならない為にも、コイツを用意したんだからな」

独り呟きながら、ハンガーに佇む鋼鉄の巨人を見上げる。

「……随分変わりましたね」

「まぁな。何しろ基本フレームを再設計しなおしてるからな、コイツは」

エステバリスの大きさは6メートル程度。
それよりも若干大きくなり、ブラックサレナと同じく8メートル程度になっている。
主な改造としては大出力ジェネレーターの装備によりディストーションフィールドの出力が大幅に向上。
これによって万が一、敵のボソンジャンプに巻き込まれても生きのびることが可能になった。
それと同時に、新型重力波推進ユニットを複数装備。
これは従来の0Gフレームに搭載されていたものの2.5倍の出力を誇る。
それを両肩部、腰部の3基装備したことによりブラックサレナと同等の機動性を実現。
また、空戦フレームの特徴であった重力波アンテナを装備することにより、ナデシコのエネルギー供給範囲から自機が離れたとしても、範囲内の他の機体からエネルギーを受信することが可能になった。
この装備によって、エステバリス最大のネックであった行動半径を大幅に拡大することが出来たのである。
万が一、アンテナが破損した状態で供給エリアから離脱したとしても、大出力ジェネレーターによって活動を続けることが出来るのだ。
勿論そうなった場合はディストーションフィールドの出力が低下してしまうのは言うまでも無い。

「それで、武器の方は?」

「注文通り、それぞれのパイロットの特製を活かした得物を用意してあるぜ」

今回の改造にあたり、各パイロットの役割を明確にすることになった。
従来ではフレーム次第で担当できるポジションが限られていたが、フレームをほぼ共通規格に統一し、ポジションに合わせた装備を開発することによって柔軟な対応を可能にしたのだ。
各ポジションの例を挙げると次の通りである。

・近接前衛装備
主兵装としてフィールドランサーの技術を応用した対機動兵器用の日本刀「琥珀」を装備。
ディストーションフィールドを中和可能な兵装を活かし、近接戦闘を担当する。

・制圧支援装備
主兵装として従来型よりも強化された荷電粒子砲を装備。

「説明しましょう」

「うおぁっ!? な、なんすかイネスさんいきなり!?」

「兵装の説明、するんでしょう? 違ったかしら?」

「い、いえ……あってますけど……なんで今の状況がわかったんですか?」

「そんなこと、私がわかる筈ないでしょう? そうね……敢えて説明するなら神様のお告げかしら?」

「科学者が神様とか言って良いんすか……?」

「いちいち煩いわね。セイヤさんが説明しないのであればそれは私の仕事でしょう?」

「ん……、まあ俺は理論とかそういう説明はなぁ……」

「ほら見なさい。とにかく、説明するからちゃんと聞くのよ?」

「了解です。……軽くでお願いしますよ?」

「それじゃ説明しましょう。そうね……まずは接近戦の要である「琥珀」からいきましょうか。
 琥珀だけでなく格闘戦用の武器全般に言えることだけど、これらはすべて内部に小型のエネルギー発信装置が組み込まれているわ。
 マニピュレーターからグリップを通してエネルギーが供給され、刀身をディストーションフィールドとは違う特殊なエネルギーフィールドで包むのよ。
 相手を攻撃する際にこのエネルギーフィールドが相手のディストーションフィールドに干渉し、過負荷を与えシステムを暴走させ一時的にフィールドを無効化するの。
 戦艦クラスのフィールドとなると無効化するのに一秒程度かかるけど、その他の機動兵器なら殆どの場合瞬時に無効化出来る筈よ。
 ただし、ディストーションフィールドを無効化するフィールドを展開しているということは、自分のフィールドも無効化するということだから取り扱いには注意が必要ね」

ちなみに、アキトのフリージアに装備されている「龍牙」を始めとする各種近接武器もディストーションフィールドを無効化する機能を有しているが、あれはまた別のシステムである。
解析をしたイネス曰く、中和やシステムのオーバーロードを引き起こして一時的に無効化するものではなく、フィールド自体に干渉して相殺しているらしい。
詳細はフリージアに搭載されているコクリコにでも聞けばわかるのだろうが、アキトが地球圏にいない以上解明は当分先になりそうだった。 

「……とまあ、近接装備に関してはこんなところかしら。
 次に射撃武器に移りましょうか。制圧支援の主兵装として用意されたのは、従来のタイプよりも大幅に強化された荷電粒子砲よ。
 勘違いされるケースが多いのだけれど、荷電粒子砲は光学兵器ではないわ。従ってディストーションフィールドに対して有効な武装というわけ。
 理論を簡単に解説すると、イオン化された原子や電荷を加えた素粒子などを粒子加速器にて加速、撃ちだす質量兵器よ。
 従来型に比べてどう強化されたかというと、まず撃ちだす粒子を重金属粒子から大気中に含まれる原子へと変更。
 知っての通り、大気中には窒素、酸素、アルゴンや二酸化炭素など様々な種類の元素が含まれているわね。
 その大気中に漂う元素を取り込み、電荷を加えて撃ちだすことによって事実上弾数は無限。
 イオン化しやすい重金属じゃなくなったから、その分イオン化する時間、つまりチャージに時間がかかるけれど射出される質量自体は、技術進歩もあってこちらが上よ。
 真空中、つまり宇宙空間では周囲に漂う水素原子を利用しているわ。
 チャージ時間については、フルチャージに5分程度ね。これは巡洋艦クラスのディストーションフィールドを消失させることが可能よ。
 ただし、消失可能なだけであって充分なダメージを与えられるかは別問題ね。
 戦艦クラスやチューリップにも効果が無い訳ではないけど、多少の過負荷を与えるだけに過ぎないわ」

制圧支援の戦法としては、荷電粒子砲を用いて敵機動兵器を撃滅し、近接前衛の進路や退路を確保することにある。
また、後述する砲撃支援や前衛と連携を取ることによって、戦艦やチューリップを撃滅することも不可能ではない。

「また、対小型機動兵器の殲滅や単にフィールド消失を目的とするのであれば、荷電粒子の集束率を下げて拡散照射というのも可能よ。
 この武器で気を付けるべき点は、やっぱり発射時に自身のフィールドを展開出来ないという点かしらね。
 あとは質量兵器である以上、地球上での威力は若干低下するわ」

付けくわえると、荷電粒子というのは直進させるのが非常に困難な粒子である。
これは磁場の影響を受けやすいからで、地球上では地磁気、宇宙では太陽風などの影響を受けて簡単に偏向してしまう性質を持っているのだ。
従来の荷電粒子砲では重金属などの質量の大きい荷電粒子を用いることで直進させることに成功していたが、小さい質量の荷電粒子では上記のように直進させることが困難である。
これを解決したのが、古代火星文明から得た時空歪曲技術や重力制御技術だ。
砲口付近に粒子の最終進路を決定させる為のフィールド発生装置があり、そのフィールドを通すことで荷電粒子の集束率と直進性を高め最終進路を決定しているのだ。
この集束率を意図的に下げることにより、スプレーのように拡散して照射することも可能になる。

この兵器の弱点としては、その大きさにある。
技術が画期的に進歩したとは言え、かなり大がかりなシステムを採用しているので後にエステバリスカスタムが装備していたレールガンの1.5倍程度の大きさがある。
未使用時には砲身を折りたたむことが可能ではあるものの、近接戦に持ち込まれればデッドウェイトになることは必至だろう。
また注意が必要なのは、この兵器は常時エネルギーをチャージしている訳ではないということだ。
これは連射によるオーバーヒートや砲身の破損を防ぐための措置でもある。
従って、一度最大限までエネルギーをチャージした後、放射する粒子量を決定するという方式になる。

「まあその辺に関してはパイロットの腕次第といったところかしらね。
 それじゃ最後の砲撃支援装備について説明するわ。
 砲撃支援はその名の通り、強力な火砲によって前衛と制圧支援両方の援護を主任務とするポジションよ。
 主兵装として76mm支援砲を装備。これは電磁投射式の火器じゃなくて、通常火薬を使用した従来式の支援火器ね。
 説明が前後するけど、一応全ポジションにはレールガンが標準装備として設定されているわ。
 レールガンの基本的な構造については長くなるから省くわね。
 簡単に説明すると基本的に二本のレールの間に電導体製の弾丸を挟みこんで電流を流し、レールと弾丸の間に発生する磁場の相互作用によって弾丸を加速し、射出するというものよ。
 従来の火薬式の兵器と何が違うかというと、従来の火薬式ではその爆発による圧力で弾丸を射出していたのだけど、殆どのエネルギーが燃焼に使用されて射出する為のエネルギーがごく僅かだったの。
 だけど電気を使用することにより燃焼というプロセスを必要としなくなり、その分効率よく射出の為にエネルギーを使うことが可能となったのよ。
 射出する方法も、圧力から磁場の相互作用に変った為に得られる初速が倍増。理論上は光速を限界としてるわね。
 弾頭の速度が速いということは、貫通力も通常兵器と比べて段違いだから、ラピッドライフルなんかよりも遥かに効率よく敵を破壊出来るわ。
 ただまあ、フィールドを展開していない敵に対しては先日の大型ジョロ相手に使用した30mmガトリング砲でも充分通用するわね。
 問題はフィールドを展開している敵ね。私たちの技術が日々進歩しているように、向こうの技術も日々進歩しているらしいわ。
 性能は勿論のこと、ディストーションフィールドの出力もかなり強化されているわ。
 現状の戦術だと、機動兵器についてはライフルやミサイルの飽和攻撃で撃破、巡洋艦クラス以降になるとミサイルとグラビティブラスト、または荷電粒子砲による攻撃が基本とされているわね。
 という訳で、現状でも一応通常の兵器で対応は可能なの。
 じゃあ何故レールガンが必要かというと、ナデシコが特殊な立場にあることがまず一番の理由かしらね」

ナデシコは一応出向という形で軍に協力、編成されてはいるものの基本的に単艦行動をしている。
簡単に言うと嫌われているから、軍が兵力を増強する間の囮として使われているということである。
単艦で行動している以上、搭載機は6機+予備機しか存在せず、その為前述のような飽和攻撃というのが困難になってくる。
そんな背景から、一機で複数以上の敵機を殲滅可能な武器の開発が急ピッチで進められたのだ。
勿論、今後登場してくるであろう優人兵器対策という一面もある。

「レールガンというのは、簡単に威力とスピードのある兵器って考えてもらって良いのだけれど、それ一辺倒という訳にもいかないの。
 速射性に優れているとは言っても、連射し続ければ銃身が耐えられなくなるし弾丸もあっという間に底を着くわ。
 それに、弾丸に電導体製のものを使わないといけないから、装填出来る弾種が限られて戦術の幅が狭まってしまう。
 という訳で同時に開発されたのが、76mm支援砲というわけね。
 現在エステバリスシリーズが装備している支援砲と言えば、重機動フレーム……通称砲戦フレームが装備する120mmカノン砲ね。
 あれは威力だけは申し分ないのだけど、発射時の反動や弾薬の大きさなんかで取り扱いが不便な上に連射も利かない。
 という訳でもう少し口径の小さい、連射可能な支援砲を開発することにしたのよ。
 76mmという口径は、既にその口径に合う弾頭が開発されていたから。ちなみに連射速度は120mmカノン砲が毎分45発なのに対し、76mm砲は毎分120発と倍以上。
 弾頭は通常のAPFSDS弾頭の他に、HEAT弾頭など戦況に応じて変更することが可能よ」

とまあ、これらが各ポジションが装備する基本的な武器である。
共通した武装はイネスが説明したレールガンの他に、固定武装として15連装マイクロミサイルベイが脚部、腕部に各二基の計四基とワイヤードフィストの代わりに近接格闘用のクローを内蔵。
ポジションは各パイロットが得意とする分野を担当することになっているが、最終的には全員が同じレベルで全てのポジションを担当出来なければならない。
その点に関しては、性格に難ありでも一流のパイロットなのだから問題ないだろう。

「……ふう、やっと終わった」

説明を終えるとイネスは満足したのか、実にスッキリとした笑みを浮かべてウィンドウを閉じていった。
ちなみに隣に居た筈のウリバタケの姿はいつのまにか消えていた。
……まあ、あの長ったらしい説明を開発者が最後まで聞く必要も無いし、出撃前の忙しい時期にのんびりと聞いている場合じゃない。
イネスもそこら辺は理解していたから何も言わなかったのだろう。

「一応俺艦長なんだけどなぁ……」

俺が仕事をする時間を奪われるのは問題ないんだろうか……。
まあないんだろうなぁ。基本的なことはオモイカネやルリちゃんがやってしまうし、艦内の風紀はプロスさんが目を光らせてるし。
警備に関してはゴートさんがやってるし、戦闘時の作戦については主にリョーコちゃんに任せてるし……。

「…………もしかして、俺の存在意義ってなかったりする?」

そんな事を自問自答しながらも、ナデシコは順調に作戦空域へと近づいて行くのであった。

 

――15分前、作戦空域――


「はい、とゆー訳でやってきました作戦空域」

「なんか時継君、疲れてるみたいだけどどうかしたの?」

「何でも、イネスさんの説明をずっと聴いていたそうですよ。それも立ったままで」

「あらー、そりゃ疲れもするわね。大丈夫なのかしら」

「ご心配どーもありがとうございます。どーせ仕事なんて無い身分ですからー」

「なんか時継君、荒んでるみたいだけどどうかしたの?」

「何でも、自分がやる仕事が無いことに気が付いたみたいですよ」

「あらー、確かに作戦立案もルリルリとオモイカネがメインだったみたいだしねぇ〜」

「い、一応俺だって立案したんだけどな……」

「そんなことはどうでもいいです。それより時継さん、もうすぐ作戦開始時刻ですよ」

「おっと、危ない危ない。それじゃ最後に一応作戦の確認しておこうか」

という訳で再確認。
まず最初に軌道上にあるビッグバリアの残骸に取り付けた加速装置を作動させ、再突入。
それをナナフシが重力波レールガンで狙撃、破壊した場合は山影からグラビティブラストで狙撃して撃破……というのがプランAである。
万が一、ナナフシの破壊に失敗した場合はエステバリス隊による作戦を展開……これがプランBだ。

【思ったんですけど、これってナナフシが重力波レールガンを撃たなかった場合の作戦が完全に抜け落ちてますよね】

「大丈夫。ナナフシは絶対に、何があろうと必ず撃つよ」

【何を根拠にそこまで言い切れるんですか???】

「まあ……俺なりに一応根拠を持って言ってるんだよ。その根拠については今話す事じゃない……わかるな、オモイカネ」

【……そういうことなら、了解】

「良い子だ。―――エステ隊の状況は?」

「全機即応態勢に入っています」

「作戦開始10秒前――8、7、6―――」

秒読みが開始され、カウントがゼロなると同時にナナフシ殲滅作戦は火蓋を切った。

「ビッグバリア、大気圏へ突入します。コース正常、各部異常ありません」

「敵目標、重力波反応増大!」

「ビッグバリア、ナナフシへの着弾まで残り500秒。まもなくナナフシの射程圏内に入ります」

ナナフシの射程距離と射出速度ならば、ビッグバリアに直撃してもそのまま直進して宇宙空間で消滅する筈だ。
とりあえず地球上でブラックホールを蒸発させてしまえば、地球そのものに重大な影響を与える。
いくら木連の連中が「地球憎し」の感情で戦っているとはいえ、いきなり地球を消滅させるなんてことはしないだろう。
そんなことをするのであれば、クルスクにナナフシを投入せずに月に設置して砲撃した方が遥かに手っ取り早い。
それにもう一つある。

――なんでも、クリムゾンの研究所から脱走者が出たらしい――

俺の予想が当たっていれば……クリムゾンは勿論のこと、裏で通じている木連でさえ殺すことはしない筈だ。
どうしてナナフシがクルスクに来たのかというのも説明が出来る。

……恐らく、また時空間を超えてこの世界に来た人間が現れたんだ。
それも、運悪くネルガルと接触出来ずにクリムゾンに捕まり、検査されたところ人間じゃないことが判明。
そのまま人体実験をされそうになったところ、隙を見て脱走。―――クルスクに逃げ込んだところをナナフシで頭を塞いだといったところだろう。

「上空、高度一万メートルにボース粒子の増大反応を検知!」

「な――に……っ!? 数は!?」

「4機です! 4機の敵ゲキガンタイプ出現! 同時に重力波反応を探知……グラビティブラスト……来ます!」

「オモイカネ、ディストーションフィールド展開。総員衝撃に備えてください」

――――違うっ! やつらの狙いはナデシコじゃないっ!!

「緊急コード991適用! オモイカネ、フィールド展開よりもグラビティブラストにエネルギーを回せ!」

――緊急コード991。
それはナデシコの非常事態に際し、オペレーターの入力を無視して艦の制御を可能にする緊急コードである。

「ちょ、時継さん……何を!?」

「いいからっ!! 艦内重力制御システム最大! 総員、これより本艦はバレルロールを行う。重力制御はかけているが万が一に備え各自身体を固定するように!」

「時継君! なんなのよ!?」

「敵ゲキガンタイプ、グラビティブラスト一斉発射!! ――目標はナデシコじゃありません! ビッグバリアです!」

「なんと――! そうきましたか……」

「ビッグバリア、破壊されました!」

「ということは……ナナフシの目標は……!!」

「ナナフシ、砲身旋回……ロックされました。重力波反応増大――――来ます」

ルリちゃんの合図と同時に、艦を90度ローリングさせ、ピッチ角を上げ緊急回避に移る。

「オモイカネ、グラビティブラスト最大出力、最大仰角で照射!!」

―――それとほぼ同時だった。

「きゃああぁああああああっ!?」

凄まじい振動がナデシコを揺さぶる。
ナナフシのマイクロブラックホールが艦体を掠めたのだ。

「――ちっ! 被害報告!」

「ちょ、直撃ではありません。ですが二番補助エンジンに被弾!」

「グラビティブラスト、ナナフシを直撃。ナナフシは活動を停止した模様」

「マイクロブラックホール、宇宙空間にて消滅を確認」

「相転移エンジンが無事なら問題無い! すぐに上空のゲキガンタイプが来るぞ! エステ部隊は全機発進! オモイカネ、グラビティブラストの再チャージ頼む」

【既にやってるよ! 現在出力40%、拡散放射なら発射可能!】

「よし、エステ隊の援護砲撃を行う。敵対空陣地に対しグラビティブラスト拡散放射。同時に1番から15番VLSのミサイルを発射!」

【了解!!】

既に艦の体勢は水平に戻り、同時にエステバリス部隊も出撃していた。
あとは敵対空陣地を破壊してしまえばナデシコへの脅威はジンタイプだけになる。

「よし、制空権は確保した! あとは思う存分暴れてこい!!」

≪まっかせとけぇ!!≫

重力波ユニットを唸らせながら、エステ隊は降下してくるジンタイプを迎え撃つ。
識別は不明。恐らく火星に現れたタイプの新型……というよりも正式仕様だろう。

「へっ! 敵も新型かよっ!」

≪だが俺たちだって新型だぜぇっ!!≫

≪イズミ君、牽制頼むよ!≫

≪わかったわ≫

砲撃支援装備のイズミ機が、敵の中心に向かって76mm支援砲のトリガーを引く。
毎分120発の発射速度を活かし、濃密な弾幕を形成していくが如何せん距離があるのか大した効果は得られていないようである。
しかし落下する際の加速と砲弾の加速がぶつかり合うというのは想像以上のエネルギーを生み出す為、ディストーションフィールドの出力を落とすことには成功している筈だった。
現に密集しているのが危険と判断したのか、敵は四方に散開していく。

「甘いねえ……貰ったっ!!」

その一瞬の挙動を狙い、アカツキが装備する荷電粒子砲から粒子が放たれる。
相手が散開することを見越していたアカツキは設定を集束から拡散に変更していたのだ。
予期せぬ攻撃に戸惑った2機がその粒子の直撃を浴びてしまう。
しかしそれでもディストーションフィールドは健在だった。

「だーけーど、これで終わりぃ!」

拡散粒子の直撃を確認するより早く、ヒカルはその射線上に居た一機のジンタイプに狙いを付けていた。
そして着弾とほぼ同時のタイミングで最大出力の荷電粒子を集束状態で射出する。
その粒子の奔流は出力の低下していたディストーションフィールドを破り、ジンタイプの胸部を貫通。
少し遅れて機体各所から火花が飛び散り、直撃を受けた胸部が爆発、機体は瞬く間に四散して行った。

「やるじゃないか、あいつらも」

その様子を、俺はモニター越しに眺めていた。
たった数時間の慣熟飛行だけでどうなることかと若干冷や汗モノだったが、どうやら彼らには関係ないようだった。
ジンタイプの方も、誰が乗っていたかは知らないが頭部脱出ユニットが離脱する瞬間は見えたから、恐らく無事だろう。

「それで、こっちの戦況はどうなってるのかな?」

ウィンドウから前方の大型モニターに目を移す。
敵の対空陣地はその数を半数に減らし、既に散発的な攻撃しか行われていなかった。
懸念されていた地上兵器も、グラビティブラストの照射によって全滅したのか今のところ現れる様子は見られない。

さて、来るとしたらそろそろだけど――――

「艦長!!」

――ほら、来た。

「どうしたの?」

「あの建物の陰に……人影が見えます!」

「民間人……かしらねぇ……?」

視線でゴート、プロスの二人と確認を行う。
こんな場所に人が居るとすれば、脱走してきたクリムゾンの人間以外に居る筈が無いのだ。

「ナデシコ微速前進、あの建物をカバーするように回り込むんだ」

「了〜解っ!!」

「オモイカネ、拡大出来るか?」

【勿論! ちょちょいのちょい〜っと……】

……なんだか人間臭いというよりもオヤジ臭くなってないか?
一瞬感じた不安はどこかに捨て去り、拡大された映像に集中する。

「―――――っ!!」

「マズイですな……」

「ああ、気を失ってるだけなら良いが……下手すると重症を負っている可能性もあるな」

「あれ、女の子……ですよね? どうしてこんなところに女の子が……」

「……メグミちゃん、今はそれよりも戦闘に集中するんだ。あの少女に関しては俺たちが何とかする」

「あ、はい、わかりました」

「セイヤさん、ヒナギクの準備お願い出来ますか?」

≪おう、3分待ってくれ!!≫

「40秒で……ってのは流石に無理ですよね」

≪バーカ、俺は海賊じゃねぇっての!!≫

流石セイヤさん、話の通じる人だ。

「――って、和んでる場合じゃないな」

……誰かしらもう一人くらいは跳躍してくるということは分かっていた事だ。
しかし……しかし、よりによって“あの子”が来る必要は無いだろうに……!!
しかも“あの子”が来ているということは――――

「アルメリアめ……一体何を――――」

「ボース粒子の増大反応! 場所は――ナナフシ後方、山脈の陰です」

「な―――うぉっ!?」

突然の衝撃に思考が遮断される。
ディストーションフィールドへの衝撃、レーダーの反応からナデシコが攻撃を受けているのは明白だった。
それも、今まで以上の火力がナデシコに向けられていた。

「何が起きたっ!!」

「ナナフシ後方に位置する山脈の陰に、大型ジョロ出現! ミサイルでこちらを攻撃しています!」

「同時にクルスク方面から大量のジョロ、バッタが殺到中……数、およそ5千……いえ、更に増えています」

ナナフシを奇襲攻撃すれば、クルスクに向かっていた無人機がナデシコに殺到する。
これは完全に予想していたことだ。しかし大型のジョロがボソンアウトしてくることまでは予想していなかった。
大量のジョロ、バッタを対処するのは容易いが、大型ジョロの弾幕の中での殲滅戦となると話が違ってくる。
前回のタイプより更に強化されたのか、砲撃能力が格段に上がっている。
絶え間ないミサイルと砲弾の嵐に、ナデシコはフィールドを張って防御に専念するしかなかった。

「くそ……っ、エステ隊は!? 状況はどうなっている!?」

 

―――そして現在―――

 

「セイヤさん、ヒナギクとエステの準備は!?」

「おう、とっくに出来てるぜ!!」

「プロスさん、ゴートさん、彼女のこと頼みます!」

「任せてください」

「その代わりこちらは無防備だ。救助している間の援護は頼んだぞ!」

「勿論ですっ!」

格納庫に駆け込んできた勢いそのままに、エステの脚部に飛び移り、そのままコックピットへと身を滑らせる。
既にシステムは起動されていて、IFSコネクタとリンクしパイロットを認識させれば発進出来る状態になっていた。

≪武器はどうすんだぁっ!?≫

「適当に持って行きます、あるもの全部出してください!」

そういうと武器庫のシャッターが解放される。
大量にある銃火器の中から俺は背部マウントに琥珀を、腰部ラックに76mm支援砲、両手に荷電粒子砲を二艇装備する。

≪お、おいおい! いくらお前さんのエステが他より強化されてるからって、粒子砲二つは無理だぞ!≫

「大丈夫です。流石に二つ同時に斉射なんて無茶はしませんよ!」

俺のエステはリョーコちゃん達のよりも更に強化が加えられてる。
搭載されている重力波ユニットは更に一基追加され、全部で四基になっている。
ジェネレーター関係は殆ど改造されていないものの、ナデシコの重力波ビーム圏内であれば問題なく性能を発揮出来る。

「南雲時継、出るぞ!」

リニアカタパルトが機体を勢いよく高空へと射出する。
そのまま加速し、ナデシコのディストーションフィールドと接触する寸前でフィールドが一瞬だけ消失し、俺は無事に出撃することが出来た。

≪時継さん、前方よりミサイル、及び砲弾多数接近。数合計で500発ほど。ついでにそれを追う様にバッタが接近中。これはさっきと同じ数です≫

「了解。ヒナギクはいつでも発進出来るようによろしく頼みますよ!」

≪わかっている≫

「さぁて……あいつらが派手にやってくれたんだ。俺だっていっちょ、派手にいってやろうじゃないの!」

IFSコネクタに意思を伝達。
それを受け取った機体が荷電粒子砲の射撃体勢に入る。

「粒子量100%……圧縮……完了。よし、射撃モードは拡散……っと。
 さぁて……みせてやろうじゃないの!」

手動で照準装置を作動させる。
目標は各ミサイル群の中心にあるミサイルだ。

「……そこか、沈めっ!!」

トリガーを引くと同時に、圧縮された荷電粒子が放出される。
最大出力で拡散放射された粒子の奔流は精確にミサイル群の中心を捉え、次々と誘爆を起こしていく。

「今です! ヒナギクは救助を!」

「了解した!」

≪粒子残量無し、チャージしてください≫

システムがEMPTYを告げるとほぼ同時に、俺は照射し終えた荷電粒子砲を投げ捨て、もう一艇の荷電粒子砲を構える。

「同時に撃てなくても、やりようによっては……ってね!!」

IFSコネクタに更なる意思を伝える。
それが機体を制御するOSに伝達され、FCSをコントロールしていく。
ミサイルの爆炎でモニターには映っていないが、その後方にはジョロを搭載したバッタの大群が見える筈だ。
モニターは無視し、レーダーを頼りに大まかな照準を決め、今度は粒子を最大集束で放射する。

粒子が放出されるのと同時に、先ほどとはケタ違いの反動が機体に伝わってくるが、重力波ユニットをフル稼働させその反動を相殺する。
そしてそのまま薙ぎ払うように砲身を移動させ、迫りくるバッタを一掃していく。
モニター越しに光の帯に薙ぎ倒され、次々と爆発していくバッタの姿が見えた。

しかし気を休める間もなく、アラートが鳴り響く。
再びEMPTYとなった粒子砲を投棄すると、腰部ラックから76mm支援砲を装備する。
榴霰弾頭が装填されたマガジンを支援砲に取り付け、砲弾を装填する。

≪時継さん、ヒナギクは民間人の収容を完了。既にナデシコのフィールド圏内に入っています≫

「了解。ナデシコはこの場でミサイルの迎撃と残存無人兵器の掃討、同時に周囲の索敵を頼む。
 ……リョーコちゃん達の状況は?」

≪さっきまた一機撃墜しました。……が、最後の二機に苦戦しているみたいです≫

「わかった、俺はこのまま大型ジョロの相手をする。それでも向こうが片付いてなかったらそっちの支援に向かう」

≪わかりました≫

通信を終えると同時に、ミサイルの迎撃を止める。
ナデシコがヒナギクを収容したのであれば迎撃の必要はないだろう。
ルリちゃん……は良いとして、他のクルーもこれくらいのミサイルの対処には慣れてもらわないと困るからな。

俺は兵装を76mm支援砲から琥珀に切り替え、大型ジョロが潜伏している山脈へと向かう。
四基に増設した重力波ユニットの出力は伊達ではなく、瞬く間に音速を突破し大型ジョロとの距離を詰めていく。
接近するにつれて対空砲火の密度が高くなり、ミサイルが矢のように降り注いでくる。
しかし高度50mという超低空をNOEで、それも音速で突き進んでいる機体を通常の対空ミサイルで迎撃するのは不可能というものだ。
山間を縫う様に機体を飛ばしつつ、ナデシコとのデータリンクで大型ジョロの現在位置を確認。

「この山の向こう……か―――」

目標の場所を確認すると同時に高度を上げる。
高度を上げれば被弾率が増すが、そもそも強化されたディストーションフィールドを展開しているのだから最初から脅威ではないのだ。
問題なのはむしろ、被弾の衝撃による速度低下だ。
高度50mから僅か10秒程度で山脈の山頂を超える。眼下にはフィールドを展開し防御に徹する大型ジョロの姿があった。

「さぁて……前回よりどれだけ強化されたか、見せてもらおうじゃないの!!」

そのまま逆落としに急降下をかける。
熾烈な対空砲火が襲いかかってくるが、それらはすべてフィールドによって弾かれるか、近接信管が作動することなく通り過ぎていく。
やがて迎撃を不可能と判断したのかディストーションフィールドを展開し防戦に移る大型ジョロに対し、スピードを落とす事無く突撃し琥珀のエネルギーフィールドを展開、横一文字に刃を走らせた。
恐らく大型ジョロのフィールドも強化されていたのだろうが、琥珀のアンチフィールドシステムによって瞬く間に無効化されてしまう。
そのままの勢いで懐へと飛び込み、大型ジョロの胴体部分を袈裟切りにする。
脚部のショックアブソーバーが着地の衝撃を吸収しきる前に重力波ユニットを稼働させ離脱、同時に76mm支援砲を左手に装備し、弾幕を張る。
76mmの砲口から吐き出された榴霰弾頭が次々と大型ジョロに孔を穿つ。
その内の何発かがミサイルベイを直撃したのか盛大に爆発、大型ジョロは行動を停止した。

「――南雲よりナデシコへ。大型ジョロの殲滅完了。敵ゲキガンタイプはどうなった?」

≪全機撃墜しました。エステ隊は損傷なし、現在敵残存兵力の掃討中。ですがイズミさんとリョーコさんが補給の為帰還しています≫

「了解。……収容した少女は?」

≪現在医務室に運ばれてイネスさんが診ているそうです≫

「……そうか。そっちの指揮は任せた」

≪え? 時継さん、何かあったんですか?≫

「要救助者が一人だけとは限らないでしょ? 他にいないか捜索を――――っ!?」

俺の言葉を遮るように、アラートが鳴り響き、直後爆音が轟く。
幸い、俺が狙われた訳ではないようだった。爆発は後方3kmの地点で起きていた。

≪時継さん? どうかしたんですか? 時――――≫

メグミちゃんからの通信を一方的に遮断する。
ここから先は……彼女が知るべき領域ではないからだ。

「…………」

俺はコミュニケの通信設定をオープンから秘匿回線へと切り替える。
これは歴史を変える上で重要な事態があった際に、通常回線を使用していると不都合が生じる為に作られた特別回線だ。
オモイカネと直接回線を結んでいる為、オペレーター用のIFSを持っていないと繋がらない特別仕様になっている。

「ルリちゃんには繋がなくて良い。オモイカネ、聴こえているな?」

【ばっちり聴こえてますよ】

「“要救助者”を発見した。これより救助に移る」

【それだけですか? だったら何も秘匿回線なんか使わなくても―――】

「お前にだけは先に言っておくよ。さっきの少女と今回の要救助者、俺の管轄なんだ」

【……把握しました】

「とりあえずみんなには要救助者発見とだけ伝えてくれ」

【了解。“とだけ”ってことは、何かするんですか?」

「ああ――――お客さんの相手だ」

モニターには再び爆発による閃光が浮かび上がり、僅かに遅れて衝撃波が機体を激しく揺さぶっていった。
モニターの解像度を上げると、そこには一人の少女と―――七人の追跡者が映し出されていた。

「ってな訳でオモイカネ、今から機体の操縦をお前さんに預ける」

【え!? わざわざ生身で行くんですか!? エステバリスで突っ込んで蹴散らしちゃえばいいじゃないですか!!】

「ちょいと訳ありでね。……生身で直接ぶん殴らないと気が済まないのさ」

【……わかりました。無理はしないでくださいね?】

「大丈夫だよ……俺を誰だと思ってるんだ?」

その言葉を最後に通信を切る。
機体は既に彼女の進路へと向けている。
とっく向こうからもこちらが見えてる筈だ。

「―――今、行くからな…………玲亜!!」

コクピットハッチを解放し、俺は彼女を救うべく飛び降りた。

 


第三話「歪み始めた世界」へ続く

 

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あとがきと言う名の言い訳。


はい、どうも南雲です。
二章第一話の掲載から半年ですか。……まあ今までのペースを考えれば早かった方じゃないかと自己弁護。
え? 予告とタイトルが違う???

そんなことを一々気にしてたら駄目ですwwww
(ちなみに予定では「恋と出逢いは突然に」というタイトルでした)

とりあえず今回の物語ですが、本来だったらヒロインが登場してもう少し話が進んでいる予定でした。
むしろ冒頭に登場してそのままナデシコの補充クルーとして乗船する……という流れだったんですが、正直これ以上パイロットを増やしても困るし、クルーを増やしても困るということで没になりましたwwwww
中途半端に切った原因は、新しい武器の解説に時間をかけ過ぎた所為……かなと自分では思ってます。
(一応ナデシコはSFラブコメディというジャンルで、本編もちゃんと科学的に説明出来るものが多く登場してるので適当に設定するのはなんだかなーと思って頑張って考えたんですがどうでしょうかね。
近いうちに年表とか各兵器のスペック表とかを纏めて載せたいなとか考えてたりします)

救助された少女と、七人衆に追われてる少女は一応関係がありますが、どういう関係かは次回説明ということで。
ついでに、今回物語の中で時継も言ってますが、彼とも一応関係があります。
この関係についても追々ということで。
彼の正体については、第四話あたりで明かそうかなと予定しているんですが、もしかしたら既に気付いている方もいらっしゃるんじゃないかと。

ちなみに、第二章に登場の主人公とヒロインについては、既に4年ほど前から構想が出来てました。
キャラ設定とか登場の仕方は流石に変わりましたけど、ようやく出せるとこまで来たなとほっとしてます(笑)

さて次回ですが、一応軽く予告すると時継と七人衆の対決です。まあ流れ的に当然ですがw
今後はナデシコの史実を結構飛ばして話が進んで行く予定です。
三話のタイトルである「歪み始めた世界」とあるように、どんどん歪んで行きます。
第一章はアキトたちが歴史を変え始めるという物語で、第二章はその結果歪み始めた世界を修正する……的な感じで進めていく予定です。

これ以上書くと結構ネタばれしそうなので今回はこのくらいで終了します。
まだまだ続くこの物語ですが、今後とも応援よろしくお願いします。

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