機動戦艦ナデシコ
時をかける者達

プロローグPart1


「クソっ!!奴等、まだこれだけの機動兵器をもっていたのか!」

テンカワアキトは焦っていた。
つい一時間ほど前に、廃棄されたコロニーに火星の後継者の残党が潜伏しているという情報を得たアキトだが、実際にコロニーに近づくと予想以上の敵がそこには潜んでいた。
今回アキトが相手にしている数は、戦艦や機動兵器を含めておよそ4000機程度だ。
それはいつもと同じ位の数なのだが今回はおそらく草壁の率いていた部隊の本隊なのだろう、指揮官クラスが搭乗する夜天光や六連が多数配備されていた。
既に最強の暗殺者である北辰を倒し、数千機の敵を相手に戦闘を行ってきたアキト達なら、この程度の戦力を殲滅するのは容易いこと……パイロットが北辰でないのならば尚更だ。
だというのに、アキトの動きに何時も見られる『キレ』が無い。
何故なら、今のアキトにはユーチャリスを操作し、且つアキトの五感をサポートする電子の妖精、ラピス・ラズリがいないのだ。
五感はユーチャリス搭載のオモイカネ「メリッサ」がサポートしてものの、ラピスのサポートには到底及ばないものである。アキトは不完全な状態で、戦闘に臨んだのだ。
では何故ラピスはいないのか……。
それはアキトが残党の情報を掴んだ直ぐ後、つまり一時間程前の出来事だ。アキトはラピスに必ず帰ってくると約束してラピスをユーチャリスから降ろしていた。
無論、ラピスのサポート無しでは歩くこともままならないアキトだ。ラピスとのリンクを遮断すれば、例えメリッサが代わりにサポートしたとしても勝ち目は低い。
しかし、アキトは刺し違える覚悟で出撃した。故に、ラピスとのリンクを切り、彼女をユーチャリスから降ろしたのだ。
アキトがラピスに嘘をついてまで艦から降ろした理由は二つある。
一つはアキトがラピスには普通の生活をしてほしいという理由。
そしてもう一つの理由――それは彼、テンカワアキトの生命が尽きようとしていたからだ――
ルリとイネスの予測は、最悪の形で的中することとなってしまったのだ。
ラピスをユーチャリスから降ろしたアキトは、最後の残党を殲滅する為コロニーに向かい、現在に至る。


五機の六連と夜天光が連携して攻撃をしかけてくる。
アキトは向かってくる六連の内一機を集中して攻撃して連携を崩す。
連携が崩れ、隊列が乱れると同時にアキトはサレナのフィールドの出力を最大にして、固まっていた残りの六連に向かって突撃し撃墜する。
だが夜天光は傀儡舞を使いアキトの攻撃を回避して、逆にアキトがダメージを受ける破目になってしまう。この程度の技量の相手ならば、以前なら確実に命中し、当ることのなかった攻撃だった。

「ちぃっ……やはりメリッサとのリンクでは駄目なのか?」

夜天光からの攻撃を受けつつ、辛うじて最後の夜天光を撃破した。
だが安心したのも束の間、今度は大量のバッタとクーゲルが押し寄せてくる。
夜天光に気を取られている内に、アキトは包囲されてしまったのだ。
……これも、以前のアキトでは考えられないミスである。
アキトはカノン砲を連射モードからバスターモードに切り替えそれらを迎撃する。
だが、今の夜天光との戦闘で機動力、フィールド出力は通常の半分以下になり、アキトの身体も限界になっていた。

「―っ! せめて情報戦さえできれば……」

アキトは、今はいない自分のパートナーを思い浮かべたが、すぐにやめた。
――ラピスを降ろしたのは自分だ。いない者を当てにするなんて……オレもヤキがまわったな――
機体のダメージは既に70%を超え、所々に錫杖が突き刺さり火花が出ている。
漆黒の鎧も所々剥がれ落ち、抉られていた。
重力波ユニットを破壊されたのか、すでにブラックサレナは動けかった。

【マスター、ユーチャリスの損傷度が80%を超えました。バッタの残存もゼロです】

メリッサがアキトに船体のダメージを伝える。
アキトはユーチャリスを守りながら戦っていたがそれでももう限界だった。

「……そうか。意外とあっけないものなんだな……。すまないメリッサ。こんな事に付きあわせてしまって……」

【私は何時もマスターと共にあります。苦痛に思ったことなどありません】

「……ありがとう」

幾つものコロニーを堕とし、数多の人命を奪ってきたアキト。
その報いが来たのだと思い、自然と死への恐怖はなかった……。

【マスター、4時の方向にボース粒子の増大を確認】

「……ふっ、増援か。今更なぜ?
 ――だが、これで本当に終わりだな。……ルリちゃん……ラピス……ウソ、ついて……ゴメン……」

【重力波反応増大、グラビティブラスト……来ます】

「これで……終わりか……」

しかし何時になってもその瞬間は訪れない。
怪訝に感じたアキトは、閉じていた瞼を再び開け、状況を把握した。

【前方の敵艦、グラビティブラストにより消滅】

「なに!? どういうことだ!?」

《アキトさんは……アキトさんは殺させません!!》

「……ルリ……ちゃん……? そうか……ナデシコC……か」

そう、ボソンジャンプしてきたのはナデシコCだったのだ。
それもその筈である。
現時点で火星の遺跡はナデシコCが既に掌握していたので火星の後継者はジャンプは出来ない。
戦艦一隻という巨大な質量の物体をボソンジャンプさせられる人物は、自分を除けばルリとイネスしかいないのだ。
完全な奇襲で出現したナデシコCは、その場にいた火星の後継者の戦艦の殆どを初撃で沈めていた。
すると今度はブラックサレナの周りで複数の爆発が起きた。

《アキト! 大丈夫か!?》

《アキト君、大丈夫〜?》

《危なかったわね……》

やってきたのはナデシコA時代の仲間の、パイロット三人娘だった。

《……リョ―コちゃん……、ヒカルちゃん……、イズミちゃん……》

《三郎太さん、ブラックサレナの回収をお願いします》

《了解!それじゃあ、そこでまってろよ王子様!》

どうやら高杉三郎太もいるようだ……。

《リョーコさん達はユーチャリスの援護を。ライオンズシックルの皆さんはナデシコCの援護をお願いします。なにせこの艦、近接支援火器ありませんので》

《OK! まかせときな!》

《《《《《了解!》》》》》

そう言ってナデシコCとユーチャリスを護りにいくリョーコ達とライオンズシックル。
入れ違いで高杉機のスーパーエステバリスがブラックサレナを回収しに来た。


「おいおい……コイツがここまでやられるなんて何があったんだぁ?」

「高杉機、ブラックサレナの回収を完了。現在ナデシコCに向かっています」

オペレーターのマキビ・ハリことハーリー君がルリの方を向いて報告する。

「わかりました。現在の状況は?」

「現在、敵戦力の80%を殲滅完了。残存の敵、撤退していきます」

「わかりました。ハーリー君、リョーコさん達に帰還するよう伝えてください」

「えっ!? あともう少しで火星の後継者を殲滅できるのに見逃すんですか!?」

ハーリーがそう言うのも尤もなことだ。
自分達の任務は火星の後継者の殲滅……それを後一歩という所で見逃すのだから……。

「深追いはいけません。それより今はアキトさんの救出の方が大事です」

「そ、そうかもしれませんけど……」

「ところでハーリー君、もう周りに敵はいませんか?」

「あっ、はい。もうこの宙域に反応はありません。撤退したようです」

「そうですか。それでは艦内警戒態勢レベルを一段階下げ、この場で待機。
 ボソンジャンプによる奇襲は無いと思いますが、索敵と警戒は怠らないように」

「えっ? 何で待機なんですか? 艦長、艦長ぉ〜!?」

最早ルリはハーリーを無視している……嗚呼、いとあはれなり……。

「一応ディストーションフィールドは張っといてくださいね。それでは皆さん交代で少し休んでください。私は行く所があるので……」

「お供します!」

電光石火の勢いでそう言うハーリーだが、オペレーターが離れるわけにもいかない。
いや、むしろルリがハーリーを連れて行くハズがないので当然……

「ハーリー君はこのまま此処で待機」

と、言われ置いてかれてしまった。

「なんだか遠くの方で叫び声が聞こえますが……まあほっときましょう」

そういってルリはハーリーを見捨てて格納庫に向かう。
しかし艦長が離れてしまうのはどうなんだろうか、とブリッジにいた面々は思うのであった。


〜格納庫〜


今此処には半壊したブラックサレナと蒼いエステがある。
その前には医療班や整備班が殺到していた。

ブラックサレナを連れてきたはいいがハッチが熱や衝撃で変形したのか、それとも開放装置が故障しているのかあるいはその両方か。ハッチは閉じられたままだった。

「おい! 早くハッチあけねぇと死んじまうぞぉ! はやく道具持ってこーい!」

ウリバタケがお馴染のメガホンで整備班に叫んでいる。

「テンカワ! お前が死んだらウチの艦長が悲しむんだから死ぬんじゃねーぞ!」

三郎太はいきなり縁起でもないことを叫んでいる。

「テメエは! 縁起でもないこというんじゃねぇ!」

そういい、サブに制裁を加えるリョーコ。
そんな漫才かと思うやり取りをしているとルリがようやく到着した。

「はあっ、はあっ……はあっ」

ルリが息を整えていると、ブラックサレナからルリのコミュニケに通信が入った。

「……皆、久しぶりで……悪いんだが……、ルリちゃんと二人きりに……させてもらえるかな……」

この言葉に一番驚いたのはルリ自身だった。
一番会いたくて堪らなかった人に、二人きりにさせてくれといわれたのだから。

「すみません。皆さん……少しの間だけ、アキトさんと二人きりにさせてください」

「わかったよ。アキトがそう言うんならな……」

「了解。それじゃあオレは中尉と艦内デートでもするかなっと」

「てっ……てめぇ、サブ! なぁに言ってやがる!」

「お〜お〜、熱いね熱いね妬けちゃうねぇ? それじゃあルリルリ、私達も行くね」

「どこでデートするかわかんないデート……わかんないデート……わ・かんないデート……艦内デート……ぷっ! くっ……あははははっ」

そういってパイロットや整備員は格納庫を後にする。

数分後……

「……アキトさん、皆さんもう出て行かれましたよ。そろそろ出てきたらどうですか?」

そのルリの言葉を聴きサレナのハッチがゆっくりと開いた……が、中からアキトが出てくる気配が無い。
不審に思ったルリがサレナのコクピットを覗きこむと、コクピットの中には、血まみれのアキトが座っていた。

「ア、アキトさんっ! 大丈夫ですか!? 今イネスさんを呼んで……」

「痛みは無いから大丈夫だけど、無駄だよルリちゃん……もう俺の生命は長くない。
 ……それはイネス……アイちゃんにもわかっているはずだ……そうだろう?」

医療班を呼ぼうとするルリを止め、アキトは此処にいるはずのないイネス……いやアイちゃんの名を呼んだ。

《……バレてたの?》

するとウインドウにイネスの顔が映った。
他の人達も一緒になって覗いているようだ。

「イネスさん……、アキトさんが言ったこと……本当なんですか?」

ルリは今にも泣き出しそうな声でイネスに尋ねる。

《……ええ、本当よ。……アキト君……いえ、お兄ちゃんは一週間前に診察した時に……安静にしていれば持って1ヶ月ということがわかったわ。
 でも、それはあくまで安静にしていればの話よ。今は良くて……あと……数時間とないわ……》

その場にいる全員が驚愕し、誰も言葉を発することができなかった……。

「……そうか。ありがとう……アイちゃん」

《ごめんなさい……お兄ちゃん! なにも……なにもしてあげられなくて……》

「……アキトさん……」

全員の脳裏に浮かぶ絶望の文字。
かつて苦楽を共にし、同じ目的を持って戦い抜いた戦友が、今その命の灯火を消そうとしている。
ある者は、彼との出会いを思い出し、またある者は彼の境遇に怒り、涙を流した。
しかし、テンカワアキトが死を迎えるまであと数分という所で運命の歯車が狂いだす。

【マスター! 大変です。ブラックサレナのジャンプユニットに以上発生! 30秒後にジャンプ開始。座標軸固定不能! このままではランダムジャンプになってしまいます!】

ジャンプユニットの暴走。
ジャンプアウトする場所を正確にイメージ出来ないという事は死を意味する。

《どうしたの!?アキト君!》

「なんでもない……ただ、別れるのが早まっただけだ……」

そういってアキトはコミュニケを破壊する。

「そういう訳で……さよならだ、ルリちゃん」

「嫌ですっ! このままアキトさんと別れるなんて、絶対に嫌ですっ!」

そういってルリはブラックサレナのコクピットのアキトにしがみつく。

「よすんだルリちゃん! 君もランダムジャンプに巻き込まれるぞ!!」

アキトは必死にしがみつくルリを振りほどこうとするが、極限まで傷つき、疲労した体は動く気配すらない。

「私はアキトさんがいない世界なんて耐えられません! だから……だから一緒にいきます!」

「ルリちゃん……くっ……だめだっ、間に合わない……」

【ジャンプ開始まで……5……4……3……2……1……ジャンプ】

その瞬間テンカワアキト、ホシノルリはこの世界から消滅した……

――同刻ナデシコCブリッジ――

ブリッジは蜂の巣を突付いたような大騒ぎにあった。
監視していたユーチャリスの周りにボース粒子の増大を確認したからだ。

「そんな! 誰も乗っていないはずなのになんで!?」

ハーリーがルリに報告をしようとしたその瞬間、ユーチャリスはボソンジャンプした。
しかし、ルリに二度と通信が繋がることはなかった……。

 

 


プロローグPart2に続く

 

あとがき

修正09/12/10
とりあえず、調べたところ夜天光は北辰専用機という訳ではなく、指揮官クラスの人間が搭乗する機動兵器らしいので量産型から通常型へ変更しました。
その他誤字脱字や、少しだけ表現を変えてみたりとか。
しかし相変わらず酷い文章だなぁ;;;;

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