機動戦艦ナデシコ
時をかける者達

 

第三話「出撃」

 


アキトとルリは今、ナデシコの前でプロスの説明を延々と受けていた。

「……と言ってもお二人には訊かなくもよろしかったですなぁ」

今更言うなよ。と心の中で突っ込みを入れつつ、アキトとルリはナデシコを見上げていた。
ちなみに、プロスはアキト達が未来から来たという事を知っている。
他に知っている人物はゴート、エリナといったネルガルの中心的人物だ。

「……やはり変な形だな」

「はい、造るのを手伝っておいてこんな事言うのも変ですが……やっぱり変です」

「ハハハ……これは手厳しい」

……とまあ、こんな感じで話をしながら通路を進むと、格納庫に到着した。

「テンカワさんの機体の方は奥に有りますので……」

そう言って格納庫の奥を見るプロス。
ハンガーには青いエステと予備の灰色のエステ、それと様々なフレームが並んでいてその一番奥にアキトの駆る「フリージア」が固定されていた。

「ああ、わかった……」

機体の確認をすませ、格納庫を後にしようとした瞬間、青いエステがいきなり動き出した。

「ヤマダさん……ですね」

「ああ、ガイだな」

「はぁ……あんなに注意したのに……」

呆れるアキト達を見つけたのか、ガイの乗るエステが此方に向かってきた。

「テンカワさん……止めるの、手伝ってくださいよ?」

そう言ってプロスは拡声器を取り出しアキトに手渡した。

――ってプロスさん、あんたいったいどこから取り出したんだ?

「……企業秘密です……」

「人のモノローグに突っ込まんでください……」

《オオーッ! なんだお前ら、オレ様の必殺技を観に来たのか!?》

「勝手に話を進めるな!お前はダイゴウジ・ガイだな?」

《おおっ!? アンタ、オレの名前を知っているのか!?》

「まあな、ところでそのエステは調整中のはずだ……悪いことは言わん、降りた方が良いぞ?」

アキトの言う様に未調整の機体を無茶に動かそうとすると、バランサーが上手く働かない為に思う様に動けないのだ。

《そんな事はオレの熱血でカバー出来る!! そんな事よりオレの必殺技を見ろぉぉぉぉっ!!》

だがガイはアキトの忠告を無視し、必殺技の振り付けを始める。

「ガイ……お前はヒーローとしては三流……いや、失格だな」

《なぁにいぃぃ!? テメェ、オレ様の必殺技を馬鹿にするのか!?》

ボソッと言ったアキトだが、ガイの耳にはしっかりと届いていたようだ。
いやまあ、拡声機を使ってる上にエステバリスにも集音マイクが付いてるのだから当然ではあるのだけども。

「いや、別に馬鹿にした訳ではない」

《じゃあいったいどういう意味だ!!》

「ガイ……よく考えてみろ。必殺技と言うのは敵を倒す為の物だろう? 今此処に木星トカゲがいるか?
 ……居ないだろう。だから必殺技の披露は敵が現れた時にしておくんだ。それに、必殺技は敵に命中した瞬間が一番カッコいいだろう?」

アキトのその言葉を聞いたガイは、暫く考えた後こう言った。

《そうか……!そうだよ!アンタの言うとおりだよ!……わかった、今は取っておくことにしよう!》

随分とあっさりした返事に少し戸惑ったアキトだが、少しガイと話をした後、ルリ達と供に格納庫を後にした。

「なんだか、ヤマダさんにしては随分とあっさりしてましたね」

「ああ、もっと騒ぐと思ったんだが……」

「……ヤマダさんはいつもああだったのですか?」

「ええ、まあ……」

等と会話をしているとブリッジに到着した。
ブリッジにはミナトを始め、メグミ、ユリカ、ゴート、フクベが居た(あ、ジュンを忘れてた)

「あ〜〜!プロスさん、お帰りなさい!」

「おかえりなさい。……そちらの方々は誰ですか?」

「ミスターの隠し子……にしては大きすぎよね。特にお兄さんの方は……」

……約一名とんでもない事を言っているが無視しよう。

「え〜っとですね、このお二人はナデシコのクルーとして乗っていただく事になったネルガルの社員の人です。……では、自己紹介をお願いします」

そう言うとプロスは後に下がり、代わりにアキトとルリが前に出た。

「オペレーター担当のホシノ・ルリです。よろしくお願いします」

「副提督兼パイロットのテンカワ・アキトだ。よろしく」

随分あっさりとした自己紹介である……。

「えっと……それだけですか?」

その事に不満そうにメグミが二人に尋ねる。

「あまり自分で自分のことを言うのが得意じゃないんでね。」

その一言で一気に場の空気がしらけてゆく。
そんな中、ユリカだけは一人ブツブツと何かを呟いていた。

「え〜……それでは、他の皆さんの自己紹介と一緒にお二人に質問されるというのは?」

とっさにプロスがそう提案した。

「別に構わない」

「私も、別に構いません」

「それではまずはメグミさんからどうぞ」

「えっ!? わ、私からですか!? ……えっと、通信士のメグミ・レイナード17歳です。以前は声優をやってました」

いきなり話を振られて戸惑うメグミだったが、直ぐにいつものペースに戻った。
……流石は元アイドル声優である。

「質問は?」

「えっと……それじゃあ副提督に」

「俺のことはアキトで構わない。ここは戦艦じゃないしな」

「私もルリで構いません」

「あ、じゃあ私の事もメグミで良いですよ」

「それで……? 質問はなんだい?」

「えっと…………なんでアキトさんはそんな格好しているんですか?」

……ちなみに今のアキトの服装はいつもと変わらない黒いマントに黒いバイザーだ。
アキト達にとってはいつも通りなのだが、初対面であるメグミ達から見たら変人、もしくはコスプレイヤーにしか見えないのだ。
その証拠にユリカ以外の初対面の人達は「うんうん」と言った感じで頷いている。

「……この服装はパイロットスーツも兼ねていてね、他にも防弾・防刃機能もあるんだ。だから別にコスプレとかじゃないんだ」

そういって説明するアキトだが、いやどうみてもコスプレだろう。というのが全員の意見だった。

「……ちなみにこのバイザーなんだけど、昔色々あった所為で、目が不自由になってしまってね。これでその後遺症を隠していたんだ。
 完全に治った今でも、これが無いと落ち着かなくてね、だから付けてるんだ」

「あ……ごめんなさい……」

「いや、気にしなくていいよ。質問するように仕掛けたのは此方なんだし、もう昔の事だから。……これからよろしくね、メグミちゃん」

「はい、よろしくお願いします」

そういってメグミは後に下がり、代わりにミナトが前に出てきた。

「じゃあ次は私の番ね。操舵士のハルカ・ミナトよ。歳は22歳、スリーサイズはヒ・ミ・ツ。以前は社長秘書をやっていたわ。
 えっと……アキト君は良いとして、ルリちゃんはルリルリって呼んでいいかしら?」

「はい、いいですよ」

「ありがとう、最後は質問ね」

「はい、なんでしょう」

「えっと、アキト君に質問なんだけどぉ〜♪」

そう言っていきなり何とも言えない笑みを見せるミナト。

「な……なんだ?」

アキトは途轍もなく嫌な予感がしたが、続きを促した。

「アキト君とルリルリってぇ、どういう関係♪?」

「「そ……それは……」」

ちなみにユリカ対策としてその事を皆には言うつもりだったし(というかすぐにバレるので)ミナト辺りにこういう質問をされる事を予想はしていた。
しかし、いざとなると口篭ってしまうアキトとルリであった。

「もしかして……付き合ってるとか♪?」

「「……」」

「ひょっとして実はもう婚約済みとか♪?」

「「!!!!!」」

((す……するどい))

「あらら……冗談のつもりだったんだけど、当っちゃったみたい?」

「え〜〜っ!!本当なんですか!?」

メグミが残念そうにアキトに尋ねる。

「……ああ、本当だ」

流石にアキトも腹を括った、観念してそう答えた。

「アキト君、あなた何歳だっけ?」

「あ、私も知りたいです」

「……18だ」

「「18!?」」

二人ともかなり驚いてる。

……まあ、無理も無いが……。

「ルリルリは?」

「……16です」

「あらぁ、ルリルリ幼な妻♪」

そのミナトの一言によってルリは顔を真っ赤にして下を向いてしまった。

「つ、次だ! 次!」

流石にミナトの口撃に耐えられなくなったアキトは質問を打ち切り、次の人の自己紹介を始めさせた。

「まぁ、仕方ないわね。後でじっくりと聞かせてもらうわよ? ルリルリ♪」

ハァ……と同時に溜め息を吐くアキトとルリ。
二人は改めてミナトには敵わないということを思い知らされたのであった。

「え〜……それでは艦長? 最後のシメをお願いします」

プロスがユリカにそう尋ねるが、ユリカからは何の反応も無い。
うん、一応ジュンとかもいるんだけどね。
とりあえず完全に天然のアクティブステルスによって誰にも認識されないらしい。

「……カワ……テンカワ……テン……」

「艦長? ……どうかなさいましたか?」

「テンカワ――」

そこでユリカの独り言が終わり、すぐさまアキトとルリはそれが危険だということを理解する。

「……アキトさん」

「ああ、そろそろ来るぞ」

そう言うとアキトはすぐ側に居たプロスとゴートに、ルリはミナトとメグミに耳栓を渡した。

「……! 解りました」

「……むう」

「「えっ?な、何?」

プロスは予めアキトからユリカの超音波攻撃の事を聞いていたので、直ぐに耳栓を装着した。
……ちなみにジュンはいつも一緒にいるので耐性が付いているだろうということで渡していない。

「―――アキト……?」

超音波兵器が炸裂する直前、アキト達の背後で気の抜けた音が聴こえた。
どうやら、誰かがブリッジに入ってきたようだ。
そして、まるでそれが合図だったかのように……

「ああ〜〜っ!!!! アキトだ〜〜〜っ!!!!!!!!」

ユリカの超音波攻撃が炸裂!!

「ギャアァァァ!?」

後から入ってきた謎の人物はこの攻撃を防げる筈も無く、絶命した。
いやまあ実際は気絶しただけだけども、表現上は絶命という感じで。

「アキトアキトアキト〜〜! も〜っ!なんでユリカの事無視してたの〜?」

そう言ってアキトに抱きつこうとするユリカだが……

ヒラリとアキトに避けられてしまった。

「……久しぶりだな、ユリカ」

「も〜、なんで避けるのぉ? ……あっ、そっか、久々に逢ったから照れてるのよね!でもそんな事気にしなくてもいいのよ!」

そう言って再度アキトに飛び掛るユリカ。
だが、アキトはまたも避ける。

「「「え〜っと……二人とも知り合いだったの?(んですか?)」」」

この光景を見たミナト、メグミ、ジュンの三人が二人に尋ねる。

「うん! アキトは私の王子様なんだよ!」

そういうユリカだが――――

いや、どうみても絶対ちがうでしょ。というのがこの状況を見た人の普通の意見だ。
例外として一人だけ訳が解らず狼狽えている人物がいるが、ここは無視しよう。

「……残念だが、俺はお前の王子様じゃない」

きっぱりと事実を述べるアキトだが、暴走状態のユリカにそんな事いっても理解……というか認める筈が無い。
まあ恐らく、通常でも同じ事なのだろうが。

「も〜、アキトったら照れちゃって〜」

「艦長……? いい加減にして下さい」

隣でアキトがどの様にしてこの状況を切り抜けるかを見ていたルリだが、流石に耐えられなくなったのか話に参戦してきた。

「わぁお……アキト君とルリルリと艦長の三角関係♪ ルリルリ、頑張って!」

「でもミナトさん、アレって全然三角関係とは言えませんよ?」

……ちなみにミナト達はその場から離れて観戦モードだ。
プロスなんかは何時の間に用意したのか、お茶と羊羹を摘みながらフクベ提督と和やかムードに入っている。

「ほえ? ルリちゃん、どうかした?」

「アキトさんは私の騎士様なんです! 従って、アキトさんはユリカさんの王子様ではありません」

「ええ〜っ!? ど、どういうこと?アキトは私の王子様なんだよね?」

「違う」

きっぱりと断言するアキト。

「そうよね……って、ええ〜〜〜っ!?」

「艦長、諦めた方が良いんじゃない?」

ミナトの援護攻撃だ。

「何で?アキトは私の事が大好きなのに」

……あそこまで拒絶されてもなお、そう言い切れる辺り最恐である。

「艦長はさっきの話聞いてなかったんですか?」

今度はメグミだ。

「え〜っと……何だっけ?」

どうやらアキトの事を思い出すのに精一杯で聞いていなかったらしい。

「はぁ……。あのね? 艦長、アキト君とルリルリは……」

多少……いや、かなり呆れた様子でミナトとメグミが先程の話を説明しようとした瞬間。
タイミング良く(?)敵襲を知らせる警報が鳴った。

「あれぇ? 避難訓練ですか?」

等といきなりボケるユリカ。
アンタ本当に艦長か? とここにいる全員が突っ込んだのは言うまでも無い。

「……敵襲だ」

今まで存在すら忘れ去られたフクベ提督が呟く。
……そういえばこの人はどうやって助かったのだろうか。

「現在、地上のサセボベースが木星トカゲの攻撃を受けています。目標は99.9%の確立でナデシコです」

何時の間にかオペレーター席に着いていたルリが報告する。

「ルリちゃん、敵の数は?」

ユリカも何時の間にか真面目モードに入っている。

「バッタがおよそ120機、ジョロが80機です」

「上の状況は?」

「現在、連合軍の人達が頑張っていますが時間の問題ですね」

そういうとモニターに地上の様子が映し出される。
画面には赤い点と青い点が映っていて、青い点に次々と×が付けられていく。

「ちなみに赤い点が木星トカゲ、青い点が連合軍です……あっ、今最後の一機が墜とされました」

ルリのその一言でブリッジに重い空気が流れる。

「艦長、どうするかね?」

フクベがユリカに作戦を尋ねる。

「はい!ナデシコは海中ゲートを抜け敵の背後を取り、グラビティブラストで一掃します」

普段はボケていても的確な指示……流石は戦略シュミレーションで不敗というだけはある。
プロスもミサイル等の経費が出ないということで大喜びだ。
だが、この作戦には一つだけ問題がある。

「でもぉ〜……敵さんもいつまでも固まっていてくれるの?」

その問題点を指摘したのは以外にもミナトだった。

「はい、その為にエステバリスを一機囮に出します」

それを聞いてフクベも頷いている。
どうやら問題点をちゃんと理解していたらしい。
流石は(以下略)

「パイロットは現在医務室に居ます」

「ええ〜っ!!なんで〜!?」

「どうやら何らかの理由によって気絶したらしいです」

……つまり、すぐには出撃出来ないということだ。

「あ、でも大丈夫ですよ。アキトさんが既に出撃準備に入っています」

「「あ、本当だ」」

ブリッジを見渡すとアキトの姿がどこにも無い。
一体いつの間にブリッジを出たのだろう……?
するとタイミング良くアキトから通信が入る。

《こちらテンカワ・アキト、作戦内容は理解している。出撃後は緊急時以外は通信は入れないでくれ》

開かれたウインドウには「Sound Only」の文字と、先程のアキトからは想像がつかない様なダークトーンの声が確認できた。

(アキトさん……やはり戦闘中の顔は見せてはくれないのですね……)

そしてアキトはただ一言、

≪テンカワ・アキト、出撃する≫

といった後、通信を切ってしまった。
通信が切れた後、各々が出航の為の準備を始める。

「艦長、エンジンの方、オーケーよ」

ミナトが相転移エンジンの準備が整ったことを報告する。

「それでは、囮はアキトに任せて海底ゲートを抜けちゃいましょう」

そしてユリカは一呼吸おいて

「機動戦艦ナデシコ、発進!!」

そのお約束の一言でナデシコは発進したのであった。

 


 

第四話「反乱」に続く

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